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松澤裕作著『生きづらい明治社会 不安と競争の時代』(岩波書店、2018)随分積んでいたが、一気に読了。
「通俗道徳心」即ち「勤勉に働くこと、倹約をすること、親孝行をする」といった深い哲学的根拠を深く求めない「良いこと」は、必ずしも良い結果を生むとは限らない。にも拘わらず、貧困は「その道徳に反したからだ」と個人化され、自己責任論につながる。

そうした背景を、江戸時代の「村請制」から「地租改正」に見て、明治政府の「カネのなさ」の原因に迫る。「小さな政府」にとって、人びとが自分たちから自分が直面している困難を、他人のせい支配者のせいにしないで、自分の責任としてかぶってくれる思想は、都合が良い。だが、人びとは過酷な競争のなかで自らそのわなに嵌まり込んでしまう。「実際に成功している人は努力した人」という現実がある以上、成功した人達は自分の地位を正統化するために、このわなにむしろしがみつく。結果、貧困者は「ダメ人間」の烙印を押され、「ダメ人間」のために皆が払った税金を使う必要があるかという発想のもと、金持ちの成功者にとってより利益となる公共事業に使われる……。

明治社会を現代と比較しつつ、社会の行き詰まりのなかで、再分配せず機能していない政府に共通点を見る。

岩波ジュニア新書らしい、平明な本。

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