【刑罰】文庫本の発売に今の今まで気づいていなかったので購入、折角なので既読も含めて一気読み。終始淡々とした、複雑さのない簡潔な文章が書き記す様々な罪と裁判の物語は、弁護士=加害者側の視点から語られる。登場する加害者たちは理解できない怪物などではなく「そうすることしかできなかった」もしくは「不運にも足元の氷が割れてしまった」同じ人間なのだと語っている。代わりに、被害者の人生と苦痛はほぼ透明化されている。本の主題でないから削ぎ落とされている部分ではあるけれど、犯罪被害者の感情を考えれば、それを理由にこのシリーズを評価できない人がいるのは仕方がないとも思う。
作中で著者の感情があらわにされることはほとんどなく、時折物語の最後に一言、事務書類のメモのように付記される。それが共通して「寂しさ」なのが、私がこのシリーズを好きな理由かもしれない。どの話にも、根底には世界から切り離されたような疎外感と悲しみがある。【刑罰】を最後まで読んだとき、【犯罪】の序文をもう一度読み返した。
全部名作だけど「チェロ」「エチオピアの男」「家族」「ザイボルト」「友人」は特に好き。そしてシリーズの全てが凝縮された【犯罪】の序文が一番好き。
#読書 #fedibird