そうしてバスで湖上入口に戻り、てくてくと長島ダム方面に少し戻るとこの眺望。この長いワーレントラス橋を一望できる上に、湖の橋の色合いのコントラストといったら。冬で葉が落ちていればこそのビューポイントなところもよかった……。
ここから写真中央に見えている奥大井湖上駅(前日夜に星見列車で訪ねた駅である)まで、左側の鉄橋に存在する歩行者専用路を通って歩いていけるらしい。こんなん行くしかなくない?
少しアップダウンのある道を越えて最後の階段を降りていくと絶景、通路の手前も開放感のある眺め。この駅が話題になるのも、整備するのも良くわかる。
ちなみに湖上駅には少し急な斜面に2階建ての小さなロッジ風の建物が建っていて、うち1階にはカフェメニューを供する小さな売店が入っている。2階の展望スペースとともに座席は自由。ここで半日ぐらいぼんやりしながら景色と列車の往来を楽しむのも乙だと思う。
惜しむらくは売店の営業日がはっきりしないこと。前夜の星空列車運行時は夜間にも関わらず営業していたが、この日曜の日中はクローズ。まあ冬季は井川線自体がシーズンオフということなので、前日が望外の幸運だったのかもしれない。
鉄橋の上を歩いて待つこと5分、井川から下ってきた列車に乗って、本日3回目の長島ダム駅を目指す。
長島ダム駅に別れを告げ、今度は歩いて一駅移動。ダムの堤体を渡り対岸の旧線跡を歩く。ここは何の標識も出ていないので迷いかけたが、幸い電波が入ったので川根本町のガイドマップで見当をつけた。しぶき橋(ダムの目の前に架けられた橋で放水時にしぶきがかかることからこの名前がついたそうな)のあたりから下流に向かう階段があり、そのまま下りていくと車道に一部分断された向こう側に「ミステリ〜トンネル」
というご機嫌な看板が現れる。
井川線は旧線もトンネルが多かった。この廃止区間も多分に漏れずトンネルがある。そして鉄道線の旧線なので、トンネルにライトはない。コロナ禍前は駅とダム施設で懐中電灯の貸し出しをしていたそうだが、今は中止していると車内の観光ガイドでアナウンスされていた。
中はこっちが笑顔になる感じの、ごきげんなミステリ〜でした(※個人の感想です)。
ミステリ〜トンネルを抜けた先はゆるキャン△でも出てきたキャンプ場だった。日曜だからかオフシーズンだからか、係の人含めて誰もいない。が、よく見たら対岸の上方に線路が見える!時刻表を見るとちょうど井川方面行きが来るようだったのでしばし待つことに。無事えっちらおっちらゆっくり押し上がっていくアプト式機関車達を堪能。ほんと、鉄道が上る坂じゃないわよ、あれ……。
そして長島ダムに度々行っているので、交換がない場合はアプト式機関車が単機でアプトいちしろ駅まで戻ることを知っていた。このキャンプ場からでも長島ダム駅は遠くに望めるので、トンネル進入時の警笛等で見当をつけながらまつことしばし、交換の列車が来る気配なく井川方面行き列車が長島ダム駅を発車。これはアプトいちしろでのお出迎えチャンス!
急いで駅へ向かおうとする私の前に立ち塞がったのは、ミステリ〜トンネルであった。このキャンプ場は両側をトンネルに挟まれているのだ。そして、今から通る側の方が、長く、屈曲していて光もなく、更に地元の人頑張っちゃった案件であった。ゆるキャン△で予習してたから良かったけどそうじゃなかったら叫んでた。マジありがとうゆるキャン△。
周辺の見所は発電所への専用路となっていて渡れない橋。平成に入って長島ダムができるまでは、鉄道橋だったらしい。黒くていかつくてかっこいい。惚れる。そしてなるほど、この線形なら現・ミステリ〜トンネルへのアクセスも自然である。
納得したついでに、噂の坂道もどんなもんかと思ってちょっと上ってみた。これは、普通に、きつい。一応地図では葛折になっているが、初手の斜度がなかなかある。しかしそのおかげでちょっと上っただけでアプトに切り替わった現行線と旧線跡の橋梁を綺麗に収めることができた。これ多分、今枯れ木になってるところに桜が咲くんだろうな。秋も美しかろう。しかし眺望に抜けが出るのはこの冬の時期である。ほんと折々でおいしそうな景観が心憎い。
列車も来ないので線路に踏み入らないようにしながらレールも撮影。ラックレール、三段構えなんだな。錆止めなのか、あたりにはほんのり油の匂いが漂っていた。
で、バス停まで戻って更に接続路を歩き始めたらまたこの眺望である。何故このレベルの人出で済んでいるのか理解に苦しむが、空いているのはありがたい。しばし佇んで絶景を堪能した。
元々寸又峡観光というノウハウがあった上での長島ダムの完成に伴う鉄路再整備だった。景勝地における観光のツボを抑えているのかもしれない。この辺りは樹木もないから、中部電力か川根本町がそのように整備しているのだろう。鉄橋への案内標識も分かりにくいところには追加で掲示されていた。
そう。大井川鐵道で感心したのが、駅員から乗務員まで皆徹底して「どちらまで行かれますか?」の声かけを欠かさないことだった。南アルプスの南端からはなんとか外れているとはいえ、場所によっては携帯各社の電波が入らない立地である。接遇満足度の向上以上に、万一の事故を起こさないように、ということなのだろう。