便乗魔女()集会ネタ
深い森の奥から、おいでおいでと呼ぶ声がした。誰の声かも分からない、なのに私を呼んでいる声。
あの森の中は危ないから、近寄っては行けないよとお父さんにもお母さんにも言われていたのに、何故か勝手に足が動いた。言っちゃだめだと分かっているのに、進む足が止まってくれない。
なんで、どうして。自分の意思に反する体に意味が分からなくて泣きそうになりながら、闇の中へと進んで行ったその先で、呼ぶ声とは違う声が聞こえてきた。
「子供が一人こんな場所まで、何をしに来たんだい?」
その声がきっかけになったのか、いうことをきかなかった足がようやく止まって、力が抜けてその場にへたりこんだ。
小石やら枝やらが落ちている地面が痛い。けれど謎の現象から解放された体は、微かに震えてすぐには動いてくれそうになかった。
動けない私のすぐ横に人が立つ音と気配がした。ゆっくりと見上げると、真っ黒なローブでフードを被った背の高い人がいた。座り込む私に目線を合わせるためか、ローブの人物がしゃがみこむ。かと思えば、私の泣き出しそうに潤んだ視界に、フードを外した顔が見えた。金糸の髪に赤い瞳。子供心にも分かる美貌の顔が、私の顔を見つめていた。
便乗魔女()集会ネタ
「ああもう何が間違ってるの!?解析箇所?力の流し方?どこよ!」
ダンダンと足を踏み鳴らしながら、先端が棍棒のようになっている杖で見えない壁を叩く。殴りつけても破れないそれはとある人物によって張られた結界で、私が越えなければならない課題だった。
数年前、近寄ってはならないと言われていた森に何者かによって呼び寄せられた私は、呼び寄せた声の主とは別の人に拾われた。人里離れた場所に住む、魔女と呼ばれる存在に。
「ヘル、今日はそろそろ終わり。夕飯の支度をしないと、もう暗くなり始める時間だよ」
結界に向かって恨みがましい視線を向ける私に後ろから声がかかる。振り返れば、ここ数年で見慣れた金色を風に揺らす見た目は若い男。
魔女とは言っても、魔法を扱う森の民を総称で魔女と呼ぶらしく、私を拾ったのはこの魔女(男)である。
「今日も破れなかったぁぁ……!」
「猪みたいに鼻息荒くしない」
「猪って言うな馬鹿師匠!」
おかしな話ではあるのだが、あの日から私はこの男の弟子になった。元の場所へ帰るにあたって必要なことらしい。無知のままでいれば私はまたあの謎の声に呼ばれてしまうのだという。
「明日こそは破ってやるんだから!」
「出来るといいね、はいこれ皮剥いて」
「魔法で剥けるくせに!」
「修行だよこれも」