『じゅうぶん豊かで、貧しい社会』ロバート・スキデルスキー&エドワード・スキデルスキー 村井章子 訳
貪欲は人間本来の性質であり、それを律していたのは宗教や思想などによるモラルであった。過去の知者もそれらや時代的価値観が前提にあった故「歯止めのない経済成長」というまさかの必要充分を超えた富の追求を想像していなかった。
という話から、本書は哲学や倫理学を引き人間の「よい暮らし」とは何かから国家のあり方や資本主義を考えていこうとする。
提示される基本的価値=よい暮らしは、基礎的で素朴だが決して侵されるべきではない人間としての生き方である。
最近ニュースサイトで目にする「Z世代の働き方の価値観」などは、本書で提示される「よい暮らしを形成する七つの要素」にとても近いのではないかと思った。彼らは、優先したいものは趣味や友情、家族であるというが、本書で提示される七要素は「健康、安定、尊敬、人格または自己の確立、自然との調和、友情、余暇」なのである。
そう考えると「よい暮らし」が重視される時代になるには、もう少し時間が必要かもしれないが、ただの理想ではないのかもしれない。
個人的に興味深いというか知りたいこととして増えたものは、西洋では信仰によって人の貪欲が律されていた……つまり信仰がモラルの要であったというのなら、いつどこでなにが変わり、いまの信仰とはどういったものなのだろうか。ということである。