カメラの中の
シャッターを切る小気味のよい音がして、ひびが入って壊れかけた液晶に風景が映る。まだ動く、ということに安心する。残ったカメラはこの一台だけで、もうこの世界には、たぶん、動くものは残ってはいない。
液晶に浮かび上がってきたのは、昔であれば「廃墟」とでも呼ばれたであろう荒れ果てた教室。南から差し込む日射しはまぶしく、かつては子どもたちの声が響いていたであろう場所。見るだけで汗をかいてしまいそうな、むせかえる夏の風景だった。こみあげる懐かしさに胸が苦しくなり、液晶から目を離す。
顔をあげたところで、荒れ果てた教室であることに変わりはない。ないけれど、そこに日射しはなかった。外の景色は曇天。太陽を見ることがなくなって、何年経ったかさえ、私たちは忘れかけている。夏だけを写す旧世界のカメラは、あのころを取り戻すタイムマシンのようで、けれど、その景色にはもう届かない。
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