「魔法使いの約束」(以下まほやく)をプレイしていると、ストーリーに対して居心地の良さと同時にストレスを感じる。ストーリーの端々から恐らく、プレイヤーにとって安心できる物語たらん、という意思が垣間見えるが、それ故に瑕疵が目立つ。このちぐはぐさは何だろうと思い、脚本家の都志見氏の2020年のインタビューnews.livedoor.com/article/deta
を読んだら、少し整理できた。

まほやくを自分が進んでプレイする要因の一つに、主人公の性別を選択できるという点がある。
他のゲームでも経験があるが(自分はFE花鳥風月)、主人公の性別をプレイヤー側が選択できると、ストーリーでの主人公の扱いが男女のどちらかでも問題無いようノンバイナリー的になる。例えば主人公を指して「〇〇の息子or娘か」という表現ではなく、「〇〇の子供か」という言い方がなされたりする。
まほやくのストーリーでは、主人公の一人称が男女で変化するものの、他のキャラクター達からの扱いに差が出ることはない。自分にとって主人公は自己の投影先ではないが、このノンバイナリー的な扱いがストーリーを読み進めていく上で、安心し居心地良く感じられる要因となっているのだ。

では、主人公以外の設定はどうかというと、なかなか不安定で安心できる良いとは言い切れない。
まず、まほやくの世界では魔法を使う女性は「魔法使い」ではなく「魔女」と呼ばれていたりと、かなりバイナリー的である。
一方で、ノンバイナリーとはまた別の話題になるが、恋愛において異性愛とは異なる描写が出てくる。無生物である月に恋をするムルに、花嫁探しをするラスティカは、パン屋のおじさんを素晴らしいパンを焼くから花嫁に違いないと言い、またフィガロは主人公を籠絡しようと迫る際に「きみが男でも、女でも、老人でも、犬でも、厄災そのものだとしても…。」という言い回しをする。シャイロックは、4章6話で「…男にも、女にも、動物にも、星にも魔法使いは恋をします。」と語る。(恋愛至上主義的な物言いであることは残念である)
でも名前を持つキャラクターとして登場するのは、異性同士の新婚夫婦である。
世界観はバイナリー、かつ恋愛観についてはあらゆる恋愛を包括するような言動をキャラクターにとらせつつ、でも当然のように異性愛の夫婦が登場する。ストーリーを追ううちに、クィアを目指しつつそうなりきれていない世界観という印象を受け、それをちぐはぐに感じた。

都志見氏はインタビューで「…主人公の性別を選べるようにしたので、魔法使いは性別という概念はないことにしよう、と思いました。」と述べている。この発言で、このちぐはぐさについては少し腑に落ちた。
これは偶然だが、ゲームを始めた当初誰か1人集中してストーリーを追うキャラを決めようと考え、選んだのがムルだった。が、彼のメインスポットである未開の天文台のエピソードを開放していくと、ムルが友人である女性パティアに性差別的な言動をとっていたことが分かった。ムルは過去と現在では性格が別人という設定だが、過去のそうした言動を現在でも肯定的に捉えている台詞があり、彼がセクシズムを内面化していると思わざるをえない。
1人だけだが、このようなエピソードを見てしまったせいで、魔法使いに性別の概念が無い、とは到底思えないのだが、前述したムルの恋愛対象やラスティカ、フィガロ、シャイロックの言動にはこの設定が反映されていたのかもしれない。そう思うことで腑に落ちたのだが、このちぐはぐな世界観を容認したいわけではない。

都志見氏は主人公の性別を選択できるようにした話題の終わりに、「…男女の概念がないことにすれば、シナリオに関わる全員が、男だとか女だとかではなく、「相手が人間である」という統一した思いで書けると思いました。」と述べている。
男女の概念があっても、その前にいつだって人として接しろよ、というツッコミをいれたくなる。
が、4周年記念のイベント時のネロとブラッドリーが女性の城主ディアーヌを説得し勇気付けるシーンでは、2人は頑なな相手であっても粘り強く一人格の持ち主として相対していた。今後のまほやくに期待する点といえば、こうした粘り強い応酬による、相手を決しておざなりにすることのない関係性の構築である。

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男女の概念が無い、ということになれば魔法使い達はノンバイナリーだったりするのではないか、と思うのだが、今のところそうした描写は見られない。魔法使い達が「〇〇な男」と自称したり、他人に言われたりしても、「それは違う」となる展開は無い。
きっと都志見氏は「男女の概念がない」ことが真にどういうことか理解していないのかもしれない。
まほやくにノンバイナリー的な要素が主人公以外で描写されることはほぼ不可能だろう。「男女の概念のなさ」を描写するということは、本来なら大量の注釈を必要とする大変な作業であると考える。繊細な関係性を描くことができるまほやくなら、もしかすると、とつい期待してしまうのだが、今はまだ読んでいないストーリーを追って新たな発見を言葉にできればと考えている。

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