「Oppenheimer」 長女に誘われて一緒に観てきた。
3時間超と長い映画で、しかも英語ネイティブの長女ですら「用語が難しくてわからないところが多かった」という私にはハードルが高い内容だったものの、おそらくだがノーラン監督の伝えたかったことは理解できたと思いたい。
映画のメッセージは、「彼は確かに素晴らしい天才科学者だったし、人並みの倫理観も持ち合わせた社会的には普通の人であったが、自分が何をしているかその時点では全然理解していなかった」というのが私個人の理解である。
鑑賞後にいろいろな関連記事を読んだら、ノーラン監督自身も『彼は「絶望的な世間知らず」だと思う』と語ったらしい。そう、「世間知らず」が正しいのかも。
彼のように若くしてそのすさまじい天才ぶりを発揮し社会的にも認められ、あまつさえあれだけのプロジェクトをリーダーとして成功に導いたという点で、並大抵の人物ではない。しかしその才能は結果として22万人の一般人を殺し、その後何万と言う人々を後遺症で苦しめた。彼が自分が何をしたかを悟ったときの絶望はきちんと描かれていたと思う。
しかし日本人としては、映画全体として、広島や長崎の犠牲者に対するリスペクトは全然感じられなかった。監督が描きたかったのはそれではないのだと言われればそれまでだが、そのこと自体も、『トルーマンが「日本に原爆を落とす」ことを対して熟考もせず決定した』ことと、結局つながっているのだと暗澹たる気持ちになった。
あと私には彼が女たらしであったエピソードはもっと違う形で表現できたはずだと感じた(あの女優さんのヌードシーンは全く不要だったという立場)。が、あれをもってR指定にしたのは逆説的に正しかったのかも。ある程度社会性と理解力が培われた年齢を過ぎてから観ることが望ましい主題であると思われる。
映画として、3時間は全然長く感じなかった。非常に印象深く個人的に評価が高かったのは音響や音楽、そして彼が見る幻影(?幻覚?)あるいは心象風景の描写手法。映像美も素晴らしかった。演出として時間軸を行ったり来たりすることで、観る者を常にストーリーに引き込み主体的に考えさせる効果があったと思う。