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 三井サンの誕生日が五月二十二日だと知ったのはその日が過ぎて数ヶ月も経ってからだった。なにせ、その頃はバスケ部襲撃からのまさかの復帰騒動、県大会が始まりと大忙しだった。大体、男同士というのは誕生日だからと言って祝いあったりしない。「お前今日誕生日だからジュース奢ってやるよ」とかせいぜいその程度だ。まぁそれは俺が誕生日に対して複雑な思いを抱いてる所為でもあるし、誕生日が夏休みの真っ只中だからということでもある。
 色々あって俺のわだかまってたことは少し解消され、三井サンとはただの先輩後輩から、いわゆるお付き合いする仲になった。ただの男友達ならスルーする誕生日も、恋人となれば大事なイベントだ。プレゼントは何を贈っ
たら良いだろう、あの人の好みは?デートとかしたいよなーなどと悠長に考えてられたのはほんの短い間だった。そう、なにせその頃は県大会が始まっているのだ。新入生も入りキャプテン業も一層忙しくなった。三井サンにしても推薦で入った大学で忙しい毎日を送っている。俺たちは付き合ってるとは言え、たまに電話をするくらいのことしかできていない。

 結局、三井サンの誕生日に会うなんて約束を取り付けることはできなかった。プレゼントも高校生の懐事情では大したもの買えないから諦めてバースデーカードを送るだけにとどめた。手紙だと少し正直になってしまう俺は、お祝いの言葉と共に会えない寂しさも綴ってしまわないようメッセージも当たり障りのないものにした。
 五月二十二日。県大会に向け一層厳しい練習を終えて帰宅する途中で公衆電話に立ち寄った。時計を見る。うん、この時間なら帰宅しているはずだとかけ慣れた番号を押していく。二十回ほど呼び出し音を聞いたところで受話器を置いた。残念、まだ帰宅してないのか。タイミングが合わないのは仕方がない。寝る前にもう一度電話してみようか、でも家からだと家族の手前恋人っぽい会話はできないんだよな、大体約束をしてたわけでもないからもしかしたら大学の友達や堀田さんあたりに誕生日を祝ってもらってるかもしれない。俺はどんどん気持ちが落ち込んでいくのを自覚した。こんなことで寂しくなるのは自分に自信がないからだ。公衆電話から出て俺は俯き加減に歩いていたので前方の人物に気がつくのが遅れて思いっきりぶつかってしまった。

反射的に「すみません。」と言ったがこれはわざとぶつかられたか、こんな日に喧嘩売られるなんてなんて運がないのだと思いながらその人物を見る。 
「お前、喧嘩売られる才能あるんじゃねーか?」
 直に聞くのは久しぶりの、それは紛れもない三井サンの声だった。
「え、は?なんで?」
 いきなりのことでうまく言葉の出ない俺を気にすることなく三井サンは、
「お前の恋人の三井が誕生日を祝われにきてやったぜい!」
 と、とってもまぶしい笑顔でそう言った。
「バースデーカード、ありがとな。誕生日なんて特になんとも思ってなかったんだけどよぉ、届いたあれ見て自分でもびっくりするくれぇ嬉しくって、もう今すぐ宮城に会いてぇって朝からソワソワしっぱなしだった。お前部活帰りのこの時間くらいにそこの電話ボックスから電話かけてくるのわかってたから練習終わってから大急ぎできたわけよ!」
 三井サンの大学の場所からして、練習の後きっとシャワーも浴びずに来たんだろう、ジャージは汗で湿ってるし髪の毛もぺたりと額に張り付いている。汗臭いその姿はほんの数ヶ月前の部活帰りを思い出させて胸がギュッとなった。俺は人目も気にせずに(と言ってもこの時間のこの場所は人通りは少ないんだけど)
「俺も会いたかったよ三井サン!」

 叫ぶようにそう言いながら三井サンに抱きついた。
「おお?!ずいぶん素直じゃねーか。」
 三井サンも俺の背中に腕を回して抱きしめ返してくる。
 汗臭ぇー、うわぁ宮城の匂いだわ、あ、俺も汗臭ぇよな?ま、イイかお互い様だもんな、わははは。
 相変わらず思ったことを全部口に出す三井サンに俺も乗っかって、
「恋は盲目ってマジだったんすね。なんなら良い匂いじゃね?って思ってる自分がいる!」
「それな!」
 俺たちはぎゅうぎゅうと抱きしめ合いながら大笑いした。

 その後、三井サンが買ってきてた苺のショートケーキを、走ってきたせいで箱の中で無惨な姿になっていたそれを、道端で笑いながら半分っこして食べた。
 手掴みで行儀悪くケーキを食べる姿が最高に可愛くってエロくって今すぐキスしたいなんて思ってたら三井サンも同じ気持ちだったらしい。
「ほら、誕生日プレゼントにここでちゅーしろい。」
 この恋人からのおねだりを、断ることのできるやつがいるだろうか。苺のショートケーキ味のキスの後でちゃんと声に出して言おう。

 三井サン、誕生日おめでとう。

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