なんの用っスか?と言いかける前にガッと囲まれる。そして地を這うような声で、
「宮城、お前バレンタインの日に三っちゃんにチョコを渡して告白したそうだなっ!」
と言われた。
「ちが…」
「俺たちに断りもなくいい度胸だ!」
「いや、だから誤…」
「お前に三っちゃんを幸せにする覚悟があんのか!?」
「三っちゃんを泣かしてみろ、ただじゃあおかんぞ!」
「だーかーらっ、誤解だよ!!」
俺の叫び声はきっと隣町まで響いたに違いない。
「いやぁースマン、スマン。誤解だったのか。そうか妹さんのかぁ…」
堀田さんは謝罪してきたが、誤解が解けた割には顔つきが晴れやかではないのが謎だ。
この呼び出しは、どうやらあの日のあの場面を見た誰かの話が伝言ゲームにありがちの展開をしてそこに尾ひれはひれがつき、そのひれ付きの話をなぜか学校の番長に伝えちゃうバカがいたから起こったことのようだ。三井サンガチ勢の彼らがその話を聞いてただで済ます訳がないのはわかるけどなんでさっきみたいな話になるんだか。
「あんたら三井サンに対してどういう立ち位置なんだよ…」
「だってなぁ、卒業したら今までみたいにいかないし、誰か信頼できる奴に三っちゃんを任せたいと思ってたところに告白と聞いて、そうか宮城ならいいかも知れんとだな…」
「あのねぇ、三井サンだってあんた達と一緒で卒業するんだよ?大学生を高校生に任せるってなんなの。今までみたいに部活で一緒とかじゃないし。三井サンだって大学行ったらそこで新しい出会いとかあるし余計なお世話っていうか、そもそも本人のいないとこで何の話ししてるんだ、ってーの!」
自分で喋ってて言葉がグサグサ刺さる。なんで俺にこんなこと言わせるんだよ。なんで俺なんだよ。
「三っちゃんが執着を見せたのってお前だけなんだ。」
堀田さんは少しだけ寂しげな声で続ける。
「何にも興味がなさげで楽しそうにしててもどこか投げやりで、どうでもいいような顔をしていた三っちゃんが、なんで宮城にはあんなにも絡むのか不思議でならなかった。だけどバスケ部襲撃で見せたあの姿でわかったんだ。」
それは。
「三っちゃんは、本当に好きなものにだけ執着するんだよ。」
バスケットと安西先生と、そして宮城リョータ。
馬鹿にだってわかることだ。
「俺らがしてるのは本当に余計なお世話なんだろうけどよ、三っちゃんは、三っちゃんからは絶対に言わないだろうから、宮城頼むよ!」
「いいかもの割に交際を認めない親父みたいな勢いだったっスよね?」
「あれくらいの障害を乗り越えられないようじゃあ宮城の本気を信じられなくて。」
「あんたら本当に三井サンのこと好きなんですねぇ。」
そう、あれはもう友達というより親、保護者か?つい俺はしみじみと常日頃から思っていることを口にしてしまった
「当たり前だろ。三っちゃんは俺たちにとって大切で、大好きな友達なんだよ!」
好きなんですねって自分の言葉と大好きだという堀田さんの言葉に胸がちくりとする。どうしてこう目を背けたいのに背けていられないことばかり起こるんだろう。真っ直ぐにあの人のことを好きと言えるこの人たちが羨ましいとか知りたくなかった。
「まぁ、告白でもなんでもなかったんで杞憂に過ぎませんでしたね。」
この話はここでおしまい。そういうつもり俺はそう言ったのだが、
「宮城になら三っちゃんを任せられるっていうのは本心なんだけどな。」
などと堀田さんが続けるものだから困ってしまう。