どこから遡ったらいいのか悩むが、この言葉が生まれるきっかけとなった「二人の人物の交差」という意味において、ここではとりあえず、その起源を311におくことにしたい。

311後、twitterではさまざまな運動が起こり、そのうちの急進力の強かったものに反原発運動があった。この時に生まれた緩やかなコネクションを源流として、2013年2月、当時発生していた在特会によるヘイトスピーチに対抗する目的で「レイシストをしばき隊」が結成される。野間易道を中心とする。

この運動の初期にかかわった清義明いわく、それは、ヘイトデモを行う権利が「正当な手続きを経て許されてしまっていた」在特会に対する、草の根からの抗議であり、政治思想も異なる人々が、あくまでも「反差別」を目的に結成したものであった。ゆえに、たとえばこの中には民族右翼もいたと清は述懐する（https://masterlow.net/?p=2333）。

「しばき隊」は同年、2013年9月に解散。以降、これを引き継ぐ形で「CRAC」が生まれる。ところが、次第にCRACは「反差別」のためだけの団体ではなくなっていったようである。
清は「ある日突然、その頃に盛り上がりの兆しを見せていた国会前の特定秘密保護法案へのデモにクラックとして参加するという話が、TWITTERでクラックのアカウントから当たり前のように出てきた。自分は驚いた」と語っている。そして清はCRACを離れるが、この時のことをこうも語っている。「この後にしばき隊時代にいた右派が少しずつクラックを抜けていくことになった」。

「反差別」以外の野間の政治的イシューがCRACに持ち込まれることになった。
念の為だが、私は野間の考え自体を否定するものではない。「反差別」以外の事柄についても彼が自身の意見を持っているのは（他の市民と同じように）自然なことだし、とやかく言われることでもない。おそらく部分的には自分とも共通するところもあるだろうし。というかそもそも、政策等の個別の事柄についてまで彼の意見を逐一フォローしているわけでもない。しかしながら、本来の目的外の事柄が「運動」に持ち込まれれば、それが破綻を呼ぶのは自然なことだろうとは理解する。

長くなったが、ともあれ重要なのは、311後に生まれた緩やかなコネクションの一部が、在特会に対抗するカウンター団体「しばき隊」へとつながり、それがCRACへと発展し、CRAC以降は「反差別」だけを求める団体ではなくなっていった、という点である。
これは前提として一応抑えておかなければならない……ような気がする。

さて、311の翌年、そして「しばき隊」結成の前年となる2012年におそらく、本件の中心となる二人の人物は出会っている。元俳優の千葉麗子と、CRACに属する一般人男性「K」である。

『さよならパヨク』（青林堂）などの著書を持ち、現在「ネット右翼」的界隈に近しい立場にいる千葉麗子は、2013年頃までは明確に「左派」として活動しており、当時のログを辿れば、ネット右翼的な層は彼女を「筋金入りのサヨク」などと形容していることが確認できる。

左派であった千葉とこの男性は、2012年9月8日の首相官邸前・反原発デモに共に参加している。原発に対する意見を同じくする両者は、それなりに親交を結んだようである。一部には「交際していた」という書き込みがあるが、そちらは明確なソースが確認できない。
が、千葉は当該男性の母と会話をする間柄ではあったようで（後述）、また、2012年頃の時点では、お互いを「レイちん」「なおちん」と呼び合う、かなり、微笑ましい関係ではあった。

しかしその関係は長くは続かなかった。千葉は2014年1月、男性の母からの暴言によって心身にストレスを受けた旨をFacebookで公開している。以降彼女は、時に「マザコン」という言葉を用いて当該男性を攻撃するようになる。おそらく、千葉はこの頃を境に当該男性と決別している。

千葉は左派の活動から離れ、同年（2014年）7月には右翼系団体の街宣に参加している。彼女の「転向」を受け、当該男性もまた、千葉を「転向者」とSNS上で糾弾した。が、この対立は、それがSNS上ではいかにイデオロギー的対立に見えていたとしても、その実はおそらく、――「二人」の―― 個人的な事情であった。

2015年には、漫画家はすみとしこの問題が発生していた。はすみは、難民、在日外国人へのヘイトスピーチに該当するイラストをSNS上で発表することで一部の支持を得ていた。これに対しては、CRACも批判を投げかけ、change/orgにて、はすみを問題視する署名を展開するなどしていた。

そして2015年10月31日、ある、CRACに所属する人物のアカウントが、はすみのFacebookページに「いいね」をつけた人物をリスト化して公開した。先述の一般人男性である。

Facebookは実名を軸とし、また基本的に、そのアクティビティは全てネット上に公開されている。だから、それらのユーザーの名前は「最初から公開されている」といえばその通りだが、とはいえ、それをまとめて一般人の氏名をリストという形で公表することが、全くの謗りを受けないかといえば、そうではなかった。少なくとも、彼と対立するネットユーザーはこれを、報復に値する行為であると考えた。
そこからこの一般人男性のtwitterアカウントの特定が試みられた。そしてまもなく、当該男性の「K」という実名が暴露され、また、彼が当時、オンライン・セキュリティの会社に勤務していたことが判明し、大炎上となる。

事態は収束せず、「K」の過去のツイートも次々に掘り起こされた。そこで明らかになったのが、かつて「K」と千葉が「反原発」という共通の理念のもとに活動していた時代に使用していた挨拶――「ぱよぱよちーん」であった。

2015年11月3日に初出を確認できる「パヨク」は、その3日前、10月31日に発生したこの騒動から転じて生まれた。

つまり――「パヨク」の「パヨ」は、元を正せばある二人、その当時は志を共にしていたある男女が仲睦まじく交わし合った「おはよう」の挨拶であった。

なんじゃそら

そして千葉麗子の本の表紙をはすみとしこが描いているというね……

しました。笑
さっぱり知らない流れで驚愕の事実でした

@sapporo_posse まとめてくださってありがとうございました。シリアスに始まったので、ワクワクと読んでたんすけど、最後ズッコケましたー。パヨパヨて（笑）そんな言葉が広まってネット市民権を得るってのも数奇な話ですね。千葉麗子、プテラレンジャーだったので、名前聞くたびに複雑な気持ちになります。

@Haj1me 数奇な話です、ほんと。ジュウレンジャーでしたねぇ…。僕も見てた記憶があります。それこそ数年前、ネット上の論争で見かけるようになってから「あの人」だったと知って驚きました。

@sapporo_posse 知ってる有名人や好きなアーティスト（漫画家や作家、ミュージシャン）が、差別に意識的/無自覚に加担してるの見ると、キッつい気持ちになりますね。負けずに生きるし、ダメなものはダメだって当たり前に言い続けたいものです。

@sapporo_posse 懐かしい話でした...
後年、ろくでなし子と結婚したマイク・スコットがpayo payo chinという曲をリリースするというくだらなすぎる余談もありますね

@whistleman 知らなかったです　笑。そんなことあったんですか…