フォデューリ家
妻が何かを思い出したのか、拳を作って頷いている。碧い瞳が「いいぞ、それでこそ私の娘よ」と訴えていた。触れると面倒なので放っておいた方がいいだろう。
「こうなったら、今からでも勉強しなきゃ。善は急げよ!」
拳を高く上げ部屋を後にした娘の背中に既視感を覚えた。血は争えないとはこの事を言うのだろう。
それにしても。
「リリーの学年で一位……ね。同学年でそれだけの能力がある生徒か」
確か、とある伯爵家の三男坊が大層優秀だと聞いたことがある。彼には昼会で逢う事はあるが、礼儀正しく元平民である妻を色眼鏡で見ることも無かった。
だが今思えば、彼の視線の先にはいつも同じ人物がいたように思う。
「ふぅん……。なるほど」
「目が不穏」
彼の行動や言動はどの感情からくるのかよく知っている僕は、「余計なことはしないでよ、前科持ち」と釘を刺す妻に何も言わずににっこりと微笑んだ。