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吉村昭「ニコライ遭難」読了。
明治の日本を訪問したロシアの皇太子ニコライが警備の巡査に襲撃されて怪我を負うという、いわゆる大津事件を中心に、その前後の出来事などを描いた小説。

事件発生後、ロシアへの忖度と司法権独立をめぐる日本側の対応の顛末も興味深いのだけれど、個人的に印象に残ったのは、襲撃時にニコライを助けた人力車の車夫。
国賓一行を乗せる人力車の車夫に選ばれたのだから、きっと真面目で優秀だったのだろう彼らが、襲撃の際にニコライを助け、莫大な褒賞を受けるが…。ラスト数ページで書かれたその後の様子を読んで、思うところがあった。
真面目に仕事を頑張り、大事な仕事に抜擢され、さらに人を助けたりもした彼ら。おそらく、政治とか思想とかのためというよりは、単に目の前でお客さんが襲われたから咄嗟に助けに入った、という部分が大きかったのではないか。それは等身大の大変真っ当な生き方であるように思われるのに、しかし「その後は幸せに暮らしました」とはならなかった。後日談は短い淡々とした描写だったが、まさに歴史に振り回された小さな一個人という感じで切ない。

いつの時代でも、ここまでではないとしても、自分にはどうしようもないことに振り回されつつ何とか生きていかざるを得ないこともあるよね、と少し思った。

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