(2)
セクシュアリティには多様なあり方があり、いわゆる「男・女」によって空間を二分することによって、使いづらさを感じる人がいます。特にトイレ・シャワーは日常的に使う場所であり、そうした場所で与えられる抑圧の負担は非常に大きいです。誰もが使いやすいトイレにするため、オールジェンダートイレが必要なわけです。こうした考え方から、寮自治会から大学当局に要望が出されました。
そもそも「吉田寮自治会」とは、吉田寮の寮生全員で構成される自治団体で、その意思は(多数決ではなく)全会一致を原則とする総会の場で話し合って決められます。なお、吉田寮の入寮資格に性別要件はありません(年齢・国籍・宗教などの要件もありません)。京大の学籍があれば誰でも入寮資格があります(聴講生・科目等履修生も可能)。
全個室型オールジェンダートイレの要望を出すに当たっても、当然、まず寮内で議論がなされ、意思の一致を取ることが必要です。
この時は、有志によって何度も勉強会が開かれ、関西クィア映画祭の協力を得てドキュメンタリー映画「トイレのレッスン(Tara Mateik and the Sylvia Rivera Law Project)」の上映を行うなどし、理解を深め、問題意識を共有するための取り組みをしたそうです。
(つづく)
(4)
ここまでの参考文献をまとめておきます。
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1905/16/news035.html
(↑写真付きです。イメージがつかめると思います。)
https://www.kyoto-up.org/archives/4713
(↑京都大学新聞の記事。)
https://pamphlet.yoshidaryo.org/pamphlet2022/696/
(↑吉田寮紹介パンフレットの記事。)
合わせて、オールジェンダートイレが導入されているICUの記事も紹介しておきます。
https://www.buzzfeed.com/jp/erinakamura1/allgendertoilet
https://cococolor.jp/icuallgendertoilet_210930
(つづく)
(5)
最後に、個人的な雑感として、住んでいた者の感想を記しておきます。
私が感じた吉田寮新棟のオールジェンダートイレのよい点は、新棟の中心に位置し、かつ(一階は)食堂からも見える場所にあるので、見通しがよく、セーファーな感じがすることです。また、写真を見てもらえれば分かるように、奥に窓があって採光がよく、全体的に明るい場所になっています。
個室のドアは分厚くて重く、密閉感があるので、音も比較的気にならないと思います。
一方で、個室内にサニタリーボックスを設置していない点、個室内に換気扇がない点など、課題もあります。
私の場合は、オールジェンダートイレであるがゆえに使いにくさを覚えるということはなかったです。「全個室」というのは大事なところだと思います。
(掃除する人が少ないのでよく掃除したなとか、オールジェンダートイレとは別のところでの不満はありましたが…。)
(つづく)
(6)
当然ながら、オールジェンダートイレを導入すれば万事解決というわけではなく、大勢で共同生活を行う寮という空間では、日常のさまざまな場面で性差別が顔を出します。
特に吉田寮は、発足当初は帝大のエリート養成のために作られた男子寮であり、男性中心主義と植民地主義が交差する加害の歴史を持っています。
今では性別要件は撤廃され、多様な性のあり方をもつ人が住んでいます。しかし、もともと京大構成員のジェンダーバランスが偏っている上に、こうした歴史があることもあって、外の世界と変わらず、男性中心主義的な場になっていく方向性があることも確かです。
ボトムアップの自治的な運動からオールジェンダートイレが成立したような場で生活し、自治に取り組めたことは誇りに思いますが、一方で、全ての人が暮らしやすい空間にするために、もっとできたことはあったと考えています。
※以下のパンフ記事も参照してください。
https://pamphlet.yoshidaryo.org/pamphlet2022/696/
https://pamphlet.yoshidaryo.org/pamphlet2023/1324/
(ひとまずおわり)
(3)
この要望に対し、大学当局は「男女別トイレが一般的」「男女共用トイレは性犯罪が起こりやすい」などと(ひどい)主張をし、否定的な態度を取りました。
これに対して吉田寮自治会は、「「一般的」でないからと否定するのは少数者の圧迫」「オールジェンダートイレが、男女別トイレに比べて性犯罪が有意に起こりやすいという根拠がない」「より簡潔な構造のものを最初に作れば、話し合いによっていつでも使い方を変えられる」と再反論しました。
この後、団体交渉の場でも話し合いがもたれましたが、当局と完全に合意することはできませんでした。
結局、完成したトイレは、「全個室型」ではあるものの、左右に二個ずつ設置された個室の中央に仕切り板があり、男・女分けの標識が付けられたものでした。(何も要望しなければ全個室型にさえならなかったでしょうから、交渉の効果はあったと言えます。)
ただこれは、標識を取り除き、仕切りを無視してしまえば、全個室型オールジェンダートイレとしての運用が十分に可能な構造でした。こうして、吉田寮新棟にオールジェンダートイレが導入されることになったわけです。
なお、シャワーも同様に全個室型で、個室の中に脱衣所があり、人前で脱がなくていい設計になっています。
(つづく)