"クレンショーが指摘している重要なことは、「〇〇問題」「〇〇差別」といった具合に様々な差別をひとつひとつ切り離して考える思考法（彼女はそれを「シングルイシュー・モデル」と呼ぶ）は複数の差別の「交差点」上にいる人たちの存在を消し去ってしまうということである。だから、誤解されがちだけど、「インターセクショナリティ」というのは、単に、いろいろな差別を足し算して、「マイノリティのなかでもさらに二重三重に苦しんでいるマイノリティがいるよね」という発想とはちょっと異なる。そもそも、クレンショーが「インターセクショナリティ」という概念を作った背景には、その視点がなければ（ここでは「黒人女性」のように）現実に存在しているのに「いないことにされる」ことになってしまうという差し迫った状況があったんだ。まさにそのような「抹消」に抗して生まれたのが「インターセクショナリティ」なのである。"

バトラー入門 (ちくま新書 1807) | 藤高 和輝　p.181