試写会で『イニシェリン島の精霊』を見てきた。
(しばらくアイルランドに行けていないので、最初のコリン・ファレルのアイルランド英語を聞いただけで望郷の思いが溢れ出たのだが、それを言い始めるとキリがないのでそれはそれとして。)
まずなによりも、もはや演劇だった。しかも『西の国の伊達男』から『ゴドーを待ちながら』にいたるアイルランド演劇の系譜を忠実になぞっており、教科書的ですらあった。この映画の舞台となる時代がアイルランド内戦期だということはいかようにも解釈できるのだが、私は砲弾の爆破音が聞こえてくるほど本土と近い距離にありながら内戦自体はまったく他人事、というイニシェリン島の閉塞感こそがこの映画の重要な背景であるように思った(この閉塞感は、最近の作品で言えば『恋人はアンバー』でも描かれるアイルランドの十八番である)。登場人物も少ない不条理演劇なので、これがゴールデングローブ賞を取るというのには驚く限りだが、アイルランドを専門にしている身としては同時にうれしいことでもある。
以上が「批評」だが、個人的な「感想」としては終始漂う不穏な空気に緊張を強いられ続け、拒絶されてもなおコルムに付きまとうポーリグにイライラし、愉快な鑑賞体験とはとても言えなかった(胎児も私の不愉快さを察知したのか、後半は延々暴れていた)。