ロンサザ 途中まで
素泊まり宿でも扱いは酷く、値定めをするような視線をぶつけられた。特にサザントスは体を触られていた。ただそこに性的なものは一切なく、あくまで体つきを図っていたようにも思える。
「あいつから聞いてるよ、金がねえんだって?」
「いえ僕たちは「黙っていろ」んんんぐーーーー!」
「ちょうどうちの看板娘が倒れちまってな。代わりの奴を探してたんだが」
連れ込み宿屋の主人はサザントスを自分たちのお抱えの娼婦の代わりにするつもりらしい。私は男だがというサザントスに対し、どっちでも構わねえだよあのソドミー親父はと主人は愚痴る。
「アイン、お前は先に部屋に行っていろ。俺はここで話を聞く」
「いえ、僕も一緒に」
「ア・イ・ン」
「は、はい」
「おっ、兄ちゃんいっちょ前の騎士様か~いいねいいね」
サザントスに指摘され、ロンドは主人から鍵を受け取ると渋々と荷物を持って最上階に向かう。彼の足音が聞こえなくなると、主人はサザントスに「お前、あっちのえらーい人だろ?」と言う。別に彼にとっては他意はない。
「そりゃ旅人がそんな小綺麗な格好でくるわけがねえよ。こんな寒村にな。どうみても騎士様だ。あのくそソドミー爺をぶっ潰してくれるならいくらでも大歓迎だ」
ロンサザ 途中まで ※続き
潜入するんだろう? それならコレを着ていけと主人は男娼のドレスとケープを渡す。なぜいないんだ、と聞けば「みんな死んじまった」と呟く。その言葉にどれだけの血と悲しみが混じっているか、サザントスは知らない。だが理解はできる。
「(枢機卿派のある司祭は少年好きという噂がある。証拠を押さえてしかるべき場所で裁きを受けてもらわねば)」
なぜこれらをサザントスのみに話し、ロンドには普段の悪辣な主人の仮面で対応したかと言えば、「顔に出そうだから」という理由だった。
最上階にいけば、ロンドが丹精込めてベッドのほこり掃除をしていたり、ランプの明かりを灯してサザントスを待っていた。ちなみに窓は領主の館が見える位置になっている。
「アイン、仕事だ」
「は……はい!(サザントスさん、二人っきりの時は名前呼んでもいいのに)」
「今夜、目の前の屋敷に枢機卿派の司祭がお忍びでやってくる。奴は前々よりこの地方の領主に金を流しているという疑惑がかけられている。領主と一緒にいるところを見つけ、決定的な証拠とする」
元々この領主が武力を集めて反乱の兆しがあるから調査してくれという依頼だったが、まさかそれ以上に藪蛇だったとは。
ロンサザ 続き続き続き
「(もしあの男がいるなら……関わっているなら私は)」
「ツヴァイさん、ご飯食べましょう」
記憶に薄ら残る母親の姿。母親はどんな顔だったか、温もりも、両手の感触も、すべて彼方へと飛んでしまっている。薄氷の上を踏むように母の記憶を思い出すサザントスに、巨大な悪蛇の声が響く。
「(散れ! 貴様などに我が精神、聖域を汚させるものか!)」
「(ホントウハ聖域ナンテ、ナインダロ? アギャアアア)」
「(はぁ、はぁ――――……!)」
「(コノタイタスヲナマクラガタナデコロセルトデモ? クケケケケ!マタオヤコミズイラズデタノシモウナア、サザントス♡♡♡)