特別映像にあったようにあくまでテイラーは普遍的な人々を描いていて、私達は歴史を通して結果を知っているからこそ糾弾できるのかもしれないが、実際にあの渦中にいた人間であったのならば自身を正当化して保身に走ってしまうだろうとも思った。
どれだけモーリスが危機感を募らせ、親友に折り入って頼んでいたとしても、ユダヤ人で迫害される立場でもなく、むしろ富と名声にも恵まれ始めているハルダーは、友のためにリスクを犯すことよりも自身の幸福を優先する保身に走り、愚かなことに正常性バイアスを生じさせモーリスを安心させようとすらする。保身の結果、友情が壊れても、大虐殺が行われようと対岸の火事のまま遠目に見る事しかできなくなった状況で、自身の選択を正当化してあくまで己が善き人でありたかった、あのときはどうしようもなく、己の選択は間違いでは無いのだと折り合いをつけたい人間の葛藤が沢山見られた。
本当に普遍的な人々の普遍的な選択の結果を魅せられたと思う。
善き人
たった3人だけの演者で、舞台装置は少しの小道具と照明だけ。それなのに状況を視聴者に易々と場を想像させる演技力には脱帽するし、ハルダー以外を演じる二人が照明が変わる度に別人になるので瞬時に切り替えて演じ分ける技量がもの凄くて震えた。物事に巻き込まれて変わってしまうよくある人間の姿を演じるテナントさんも凄くて、なんかこう人間ってこんな感じだよなという愚かさを、複雑なのにこんなにわかりやすく視聴者に見せてくれるんだ…と思った。