善き人
特別映像にあったようにあくまでテイラーは普遍的な人々を描いていて、私達は歴史を通して結果を知っているからこそ糾弾できるのかもしれないが、実際にあの渦中にいた人間であったのならば自身を正当化して保身に走ってしまうだろうとも思った。
どれだけモーリスが危機感を募らせ、親友に折り入って頼んでいたとしても、ユダヤ人で迫害される立場でもなく、むしろ富と名声にも恵まれ始めているハルダーは、友のためにリスクを犯すことよりも自身の幸福を優先する保身に走り、愚かなことに正常性バイアスを生じさせモーリスを安心させようとすらする。保身の結果、友情が壊れても、大虐殺が行われようと対岸の火事のまま遠目に見る事しかできなくなった状況で、自身の選択を正当化してあくまで己が善き人でありたかった、あのときはどうしようもなく、己の選択は間違いでは無いのだと折り合いをつけたい人間の葛藤が沢山見られた。
本当に普遍的な人々の普遍的な選択の結果を魅せられたと思う。
善き人
自らの問題を提起する度に彼を悩ませつつも豊かに感情を吐露させていた妄想の中で鳴り響くはずの音たちはいつの間にか消え失せており、最後に現実で演奏する囚人達の姿を見せられて尚なんの感慨もないあっさりとした反応を見るに、ユダヤ人が悪いのだという結論に達してしまったハルダーの善の軸の崩壊と、お前は嘗て批判していた加害に加担する側になったのだという皮肉を感じた。