前方に明らかに老いた人物が走っている。遅い。足が上がっていない。平たくいうとよたよた移動している。でも全身本気のランニング装備。バリバリのランニングシューズ。高級なランニングタイツ。カラフルな通気性シャツ。シンプルだけどメーカーのロゴが入ったナップザック。日除けのキャップ。気持ちだけは本気で走っている。事情はわからないけど「走ってる」。坂道を登って行くときにおじいさんを抜く形になった。走っている人間同士が街中で声かけあうってのは恥ずかしさもあってなかなかない。でも今日は違った。抜きざまに「ナイスラン」って言ったら、おじいさん同時に「がんばってよぉ〜!」と声を張った。走って来ていることに気がついていた。振り返らず自分のペースで坂を越える。そんな余裕はない。老いには様々な形がある。ただ老いさらばえるわけじゃない。年月に争い、坂に諍い、後ろから来る若輩を鼓舞する。ひとりで走るのが好きだ。走ることだけに集中したい。けれどたまには、走っている人がいてよかったと思うことがある。走れてないおじいさんとか。(黒のシャツ黒の短パン黒のサンダルで駆け抜ける🐘)