『地図と拳』
著/ 小川哲

中国南部に構想された理想郷『満州』をめぐる55年間の物語。物凄い量の参考資料が物語るように、色々と史実に忠実に描写されている一方、天気や湿度をピタリと当てる万能計測器人間や、自筆の予言の書で50年先を予見する男、どこからともなく現れては予言めいた言葉を残し、国家存続のために多くの人を翻弄して暗躍するメフィストフェレス的な男など、いろいろと変な人がたくさんでてきて、史実を土台にした寓話めいた話だった。松尾スズキの戯曲っぽい。

ページを捲る手をとめさせない面白さで終盤は一気に読んだ。単行本600p超と見た目は京極ばりにゴツいけど、四六判1pにつき45文字×20行程度なので文字数的にはさほどでもなく、本に厚みを持たせて超大作感を出すためにあえて厚くしてるかんじがしたので、個人的にはいろいろもっとツッコんで欲しい箇所もあった。でもこれは史実を描いた本じゃないからその辺はお門違いかもしれない。

以前『同士少女よ、敵を撃て』を読んだときにもおもったことだけれど、いくら明確に「反戦」や「侵略戦争の否定」を描写していても、長い物語の読後に抱く爽快感はそれらを打ち消してしまう。でも娯楽小説なのだから、嫌な気持ちにさせて終わったのではなかなか売れない。だから、大勢のひとに届けるためにも、ある程度、読後の満足と爽快さは必要のはずなので、そのへんのバランスもよく考えて書かれたのだろうな〜ともおもう。

でも、いま現在、国内の色々なことがどんどんやばくなってるのに、誰にもとめられない、誰も気にもしてない感じが、戦争に至る前の日本はこんなかんじだったのかなとおもい、嫌な気持ちになる。そういうときに、史実をテーマにした「なんかいい気持ちにさせてくれる本」を読んでる場合じゃないよなぁ、っておもってしまった。

この作品が悪いわけじゃ全然ないんだけど。この本をとっかかりに歴史の本を読みたくなった。

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てへっ

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