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『ハムネット』
著/マギー・オファーレル
訳/小竹由美子

息子を喪った父親は、息子の名前を戯曲に冠する。父親の名前はシェイクスピア、その戯曲とは『ハムレット』――という史実から着想を得た物語。なお主人公はシェイクスピアの妻。

森の草木や薬草に精通し、鷹を飼いならし、不思議な力で未来を予見する女性・アグネスの生き方が魅力的。浮世離れした彼女が自分の世界を保ったまま、同じく浮世離れしていてまだ何者でもないシェイクスピアと恋に落ちていくのがロマンチックに描かれていてとてもよかった。

題材から何が起こるかは予測していたものの、子供が辛い目に遭うのを読むのはしんどい。その後の主人公とその家族を襲う悲しみの嵐には何度もため息がでた。

それぞれの傷口はいつまでも癒えず、なぐさめあう方法もわからず、誰もがいつもどこかにいなくなったあの子の影を探している。それでも季節をやり過ごして、各々のやり方で折り合いをつけ、少しずつ生をとりもどしていく。それはある意味哀しいことでもあるけれど、他の誰かでお手軽に埋めてはいけないんだな、とおもった。血は今も滴るけれど、それでも生きていく。

ずっと淡々とした描写がなされている小説だったけれど、森や野花が色鮮やかで、草の葉が匂い立つような本だった。

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