(洋三)大学生の三井さんが部の飲み会で「高校の時、彼女とかいなかったの」と聞かれる。自分で答えるより前に酔った後輩が「いません!三井先輩は硬派なんだから」と割って入る。「どこポジの発言だよ」「お前の妄想だろ」とチームメイトが話すのに笑って、「まあいなかったけどよ。部活忙しかったし、怪我してそれどころじゃなかった時期長いし」と言う。後輩は嬉しそうに肩を組んでくる。「ね!?怪我からの復帰とかまじ尊敬なんで。そこに優しい彼女とかいたら、なんかがっかりっていうか」「ひがみやめろ」「こいつ高校寮生活だっけ」「いつまで高校ひきずる気だよ。誰か合コンセッティングしてやれば」「やめてくださいよお、女子怖い!」「こじらせてんじゃねーよ」とワイワイする。三井さんも笑う。
すんなり声が出た。
「お前は女切れなかったみたいだけど」「だってあんた卒業するから」笑いを含んだ声がする。でも軽薄じゃなくて、三井さんへの気持ちが詰まってて、満足する。
「わりーな、年上だからよ」「まあそれは。……ねえ過去形?今から行ってもいい?」「駄目に決まってんだろ。朝練行くし」「あーあ、そうだと思ったよ」「来週の日曜は練習ない」「飲み会入れないでよ」「入れねーよ」
じゃあ、で通話を切る。手首を回す。伸びをする。深呼吸して、ベッドに寝転がる。手のひらでまぶたの上から目を温める。耳の中で水戸の声が回る。もっと味わっていたいと思いながら、ベッドに沈むように眠りに落ちる。日曜日、と思いながら眠った。