(洋三)大学生の三井さんが部の飲み会で「高校の時、彼女とかいなかったの」と聞かれる。自分で答えるより前に酔った後輩が「いません!三井先輩は硬派なんだから」と割って入る。「どこポジの発言だよ」「お前の妄想だろ」とチームメイトが話すのに笑って、「まあいなかったけどよ。部活忙しかったし、怪我してそれどころじゃなかった時期長いし」と言う。後輩は嬉しそうに肩を組んでくる。「ね!?怪我からの復帰とかまじ尊敬なんで。そこに優しい彼女とかいたら、なんかがっかりっていうか」「ひがみやめろ」「こいつ高校寮生活だっけ」「いつまで高校ひきずる気だよ。誰か合コンセッティングしてやれば」「やめてくださいよお、女子怖い!」「こじらせてんじゃねーよ」とワイワイする。三井さんも笑う。

飲み会の後、自宅に戻って頭がモヤモヤするので水を飲む。シャワーを浴びる。柔軟をする。モヤモヤが晴れなくて、時計を見る。しっかり夜中で、3コールだけ、と思いながら通話ボタンを押す。ベッドに座って壁に寄りかかりながらコール音を聞いていると「もしもし」と静かな声がする。

フォロー

「おう。寝るとこ?」「いや、目が覚めてきたところ。夜型だから」桜木が高校を卒業する時に、何かあったらと連絡先を交換して、それ以来連絡したことはなかった。
「なんでだよ。寝ろよ」「せっかく頭が冴えてきたのに?……どうしたの、声がいつもと違うね」「酔ってんだよ」「それもそうだけど。なんだか嫌なことあったの」「……別に。気分よく飲んでた」
飲み会の時に後輩に言われたことを話す。あんたいつも変なの連れてるね、と水戸が笑う。変なのとか言うな、と三井さんも笑う。少し気が晴れている。
「三井先輩は彼女いなかったもんね」「おー。付き合いたいのお前だけだったから」

すんなり声が出た。
「お前は女切れなかったみたいだけど」「だってあんた卒業するから」笑いを含んだ声がする。でも軽薄じゃなくて、三井さんへの気持ちが詰まってて、満足する。
「わりーな、年上だからよ」「まあそれは。……ねえ過去形?今から行ってもいい?」「駄目に決まってんだろ。朝練行くし」「あーあ、そうだと思ったよ」「来週の日曜は練習ない」「飲み会入れないでよ」「入れねーよ」
じゃあ、で通話を切る。手首を回す。伸びをする。深呼吸して、ベッドに寝転がる。手のひらでまぶたの上から目を温める。耳の中で水戸の声が回る。もっと味わっていたいと思いながら、ベッドに沈むように眠りに落ちる。日曜日、と思いながら眠った。

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