アメリカの大学を出て日本でプロになったばかりのリョータがチームメイトとTV番組に出演した時、年下が家庭環境に水を向けられて困っているのを見て、ふっと自然に自分の方に注意を向けて父と兄が亡くなっていることを話す。番組ホストも執拗に追ったりせず、さらりと終わらせてくれた。でもこのくだりはカットされないだろうな、と周りの反応からリョータは思う。
年下のチームメイトには番組後に謝られ、全然よ、と返す。そう、意外に全然苦しくなかった。
普通に話せるもんだ、と時が経ったことを実感していたら後日アンナからラインが来る。「リョーちゃんがお兄ちゃんって皆に言ってたから、お父さんと上のお兄ちゃんが死んじゃったって皆に知られちゃった」「どうしてくれんの」
「しばらくこっちいるってよ。お母さんにもラインするって」「ねえ代わってよ、謝りたくて」「あー? アンナ、宮城が話すことあるってよ」『やだよー』とまた声がする。『リョーちゃんの、自分ばっかり繊細顔するとこ、良くないと思いまーす』妹の声が遠い。「おー、わかるわ。そういうとこあるよな」「嘘でしょ、あんたも言うの」『これからヤスとアヤちゃんも来ます』「アンナまじ顔が広いよな。つかよ、ピザ頼んだんだけど彩子ってシーフード食えたっけ。一枚丸ごとシーフードにしちまったんだよ」「アンナがシーフード好物だからいざとなったら全部食わせてよ。というか、アンナ! あの、帰ってきたら話させて。実家行くから。お願いします」
土下座するってよ、と三井が軽く言う。アンナが笑う。多分途中から、こちらの音声はスピーカーになっている。
じゃーな、と明るく三井さんが言って通話は切れる。外はもう暗くなっている。深く息を吸って、ゆっくり吐く。自分が昔、家族にかけた心配の大きさを想像する。ほんとごめん、と思う。色々、ほんとにごめん、と練習のようにつぶやく。ベッドに寝転がる。「三井サンの家にいた」とカオルさんにラインする。笑った犬のスタンプが返ってくる。明日は、アンナが実家に帰った時に持っていくお詫びの品をみつくろいに行こうと思う。