アメリカの大学を出て日本でプロになったばかりのリョータがチームメイトとTV番組に出演した時、年下が家庭環境に水を向けられて困っているのを見て、ふっと自然に自分の方に注意を向けて父と兄が亡くなっていることを話す。番組ホストも執拗に追ったりせず、さらりと終わらせてくれた。でもこのくだりはカットされないだろうな、と周りの反応からリョータは思う。
年下のチームメイトには番組後に謝られ、全然よ、と返す。そう、意外に全然苦しくなかった。
普通に話せるもんだ、と時が経ったことを実感していたら後日アンナからラインが来る。「リョーちゃんがお兄ちゃんって皆に言ってたから、お父さんと上のお兄ちゃんが死んじゃったって皆に知られちゃった」「どうしてくれんの」

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リョータがラインを返しても既読にならなくて、ブロックされてると思って慌てる。アンナは実家から大学に通っているのでカオルさんに電話して、アンナの様子を聞く。「何日か友達の家に泊まるって言ってたよ」と返される。カオルさんも番組を見たか聞く。見たという。「嫌な取りあげ方じゃなかったね」イケメンに映ってたよ、とカオルさんは笑う。私は気にならないけど、アンナはね、また違うよね。しみじみとした声にウンと返す。

「ねえ大丈夫かな、心配じゃねえの」「リョーちゃんの中学高校を思い出したらねえ」「それはスンマセン」
私のラインには返事来てるからきっと大丈夫だよ、また帰ってきたら教えるね、と落ち着いた声にとにかくウンと返して電話を切る。夜中にアンナからラインが来て、もう翌日の夕方になっている。アンナはバイトと授業の間で即座にラインを返信するのが得意だった。いつでも明るくいてくれたし、かんしゃく起こすことはあっても無視長い間無視されたことはなくてリョータは気が急く。

ラインの通知が来る。パッとスマホの画面を見る。三井さんから写真が来たらしい。今かよと思いながらいつもの習慣でつい開いてしまう。しまった、既読つけちゃった、と思って固まる。日本酒の小瓶をラッパ飲みするアンナの自撮りで、アンナに肩を組まれてほっぺをくっつけた三井さんが笑っている。背景は三井さんのアパート。
カメラ目線のアンナの片眉を上げ方に既視感を覚えながら「は!?」と声をだす。通話の着信音がなる。
「アンナ!?」「三井だっつの」「アンナいるでしょ!?」「いるけど」「出して! てか何ほっぺくっつけてんの、カレカノみたいな距離感やめて!」「やめてってよ」遠くから『やだよー』と声がする。よく知った声で安心する。

「しばらくこっちいるってよ。お母さんにもラインするって」「ねえ代わってよ、謝りたくて」「あー? アンナ、宮城が話すことあるってよ」『やだよー』とまた声がする。『リョーちゃんの、自分ばっかり繊細顔するとこ、良くないと思いまーす』妹の声が遠い。「おー、わかるわ。そういうとこあるよな」「嘘でしょ、あんたも言うの」『これからヤスとアヤちゃんも来ます』「アンナまじ顔が広いよな。つかよ、ピザ頼んだんだけど彩子ってシーフード食えたっけ。一枚丸ごとシーフードにしちまったんだよ」「アンナがシーフード好物だからいざとなったら全部食わせてよ。というか、アンナ! あの、帰ってきたら話させて。実家行くから。お願いします」
土下座するってよ、と三井が軽く言う。アンナが笑う。多分途中から、こちらの音声はスピーカーになっている。
じゃーな、と明るく三井さんが言って通話は切れる。外はもう暗くなっている。深く息を吸って、ゆっくり吐く。自分が昔、家族にかけた心配の大きさを想像する。ほんとごめん、と思う。色々、ほんとにごめん、と練習のようにつぶやく。ベッドに寝転がる。「三井サンの家にいた」とカオルさんにラインする。笑った犬のスタンプが返ってくる。明日は、アンナが実家に帰った時に持っていくお詫びの品をみつくろいに行こうと思う。

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