江戸川乱歩の短編「パノラマ島綺譚」に登場する、人見廣介の理想郷……
その島に登場する幻惑的なアヤシイものたちの表象が、どのくらい明治~大正期の万国博覧会(もしくは内国勧業博覧会などの催し)に影響を受けているのか気になって、色々てきとうに選んで読んでいた。
私がなんとなく既視感をおぼえていたのが、小説内にある「水中を泳ぐ女」のイメージ。
これは大正3(1914)年に開催された東京大正博覧会に似たような展示物の記録が残っており、吉見俊也「博覧会の政治学」p.150に
『十八より二十二までの美人を各窟に配置し、(中略)且つ水中に裸体美人を立たしめ、微笑しつつ人を招かしむる』
と記載されていた。近い感じがする。
乱歩の「パノラマ島奇譚」が連載されたのが大正15~昭和2年ごろのことで、こうした内国博や万博が当初の学術的目的から徐々に逸れ、より「演出文化」として消費されるようになっていった過程の様子が小説にも反映されている。
日本で最初に博覧会を紹介したとされる福沢諭吉の言説が紹介される以前のことは、国雄行「博覧会と明治の日本」で詳しく紹介されていた。
「見世物」の文化と、たとえば医学の分野の研究発表の場として機能していた「薬品会」など、博覧会受容の背景がそこにもある。