妙な男がいる。いつも生魚と果樹の苗、三本の鉛筆を買い求め、勘定より硬貨四枚分多くを支払い帰って行く。
「どうも、遠い星から来た人のような買い物をするね」
ある日のこと、私はつい余計なことを呟いた。
「まさか。すぐ裏の家から来ていますよ」
あそこです、と男が指差したのはなるほど、よくある古い民家だった。
男はそれきり店に顔を見せなくなった。聞くところによれば、家を引き払ったらしい。
無人となった建物は取り壊されることになったが、庭先にまるで地面ごとどこかへ飛び去ってしまったかのような大穴が見つかったという。
埋め戻すのも一苦労なのだと、買い物に来た作業人がそうこぼしていた。
#創作 #小説