「かみさまの瞳」
通い慣れた街の幾度も通り抜けた路地で、私は道を失った。
目眩を起こしそうに複雑な模様の石畳。見上げればぐるぐると回転する街並みが空をふさぐ。
縦に、横に、時計回りに送り出される三角屋根の上を、一匹のねこが跳ねていた。ねこは通りすがりに一瞥をよこしたが、すぐにそのふしぎな色のめだまを回転の向こう側へと向けてしまう。
人々は駆けて行く。追いつかれぬよう、振り返らずに。去り行く背中はひなたのにおいがして、少しの熱を私に残す。
私だけが静止していた。すべてを見つめて、ただ見送った。
ふと来た道を振り返ると、短い路地の終端に立っている。私の足元を一匹のねこがすり抜けて、街中へと消えて行った。