『酔余のこと』
盃に落とした視線を上げると、夜空に月が三つ浮かんでいた。金と、銀と、底なし沼のような黒い月だ。
向かいの席では水玉模様の大きなねこが、鼻先についた泡を前脚で拭っている。
「私は酔っ払っているのかな」
「なにを今更。ここにいるやつはみんなとんでもない酔っ払いだよ」
「君はとてもそんなふうに見えないけれど」
「しらふのねこが、そこいらの人間と仲良くひげ突き合わせて、注いだり注がれたりなんてするもんかい」
暗闇に浮かんだ椅子に座って、私たちはたらふく飲んだ。大きなねこは拡張を続け、空の月は十まで増えた。ほうき星の尾。渦巻く光。爆発する。
もしも明日がまだあるならば、私は頭痛に苦しむだろう。
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