短編集『レキシントンの幽霊』に収録されている小説『トニー滝谷』の話
村上春樹の短編集『レキシントンの幽霊』に収録されている小説『トニー滝谷』の話
トニー滝谷が結婚した女性は非の打ち所が無く、お互いに愛し合っていたのに、唯一、「衣服が大好きすぎて買うのを我慢出来ない」という悪癖があり、ドでかい屋敷の部屋いっぱいに高価な服を買っても全く満たされず、最終的にその事が間接的な原因となり彼女は死んでしまい(!)結局トニーの孤独はさらに深まることになるんだけど、何年かけても全部なんて着られないくらい服を買いまくり、他の全てを我慢しても服だけにはお金をかけ、またその服を楽しそうに嬉しそうに美しく着こなす彼女のそういった部分にこそトニー滝谷は惚れたわけで……、と言われても、「私自身は服ってそんなに興味無いからなあ…」とぼんやり読んでいたものの、これ『服』を『本』に置き換えてみると突然自分事に近くなるので怖くなっちゃったんだよね。
自分が死んだあとの本の処分方法とか考えとかなきゃな……。
それで、同じ本に収録されている『七番目の男』で“彼”の語る波の話は、彼が幼い頃に経験した事から心に抱き続けていた恐怖の話で、「自分にとってはそれがたまたま波だったというだけのことなんです」みたいな結びになっていて(ここは収録順的にも意図してそうなんだけど)トニー滝谷の妻は依存症で、詳細は語られてないけど依存先がたまたま服だったというだけで、依存先や、形や、依存してるものの数なんかは違っても、誰にでもそういうものはあるし、私にとってはそれが本などをなんらかの形で所有したりフィクションを摂取することなのかもしれないな…と思った。