異説 げんみ× 設定の元ネタ抜粋
目も心も真暗で、町も処も覚えない。颯と一条の冷い風が、電燈の細い光に桜を誘った時である。
「旦那。」
とお千が立停って、
「宗ちゃん――宗ちゃん。」
振向きもしないで、うなだれたのが、気を感じて、眉を優しく振向いた。
「…………」
「姉さんが、魂をあげます。」――辿りながら折ったのである。……懐紙の、白い折鶴が掌てにあった。
「この飛ぶ処へ、すぐおいで。」
ほっと吹く息、薄紅に、折鶴はかえって蒼白く、花片にふっと乗って、ひらひらと空を舞って行く。……これが落ちた大きな門で、はたして宗吉は拾われたのであった。
--泉鏡花『売色鴨南蛮』