ハン・ガンさんの「すべての、白いものたちの」では若い母が産んだばかりの娘に「死なないで、死なないでお願い」と言うが、俺はそれとは逆に、母に向かって「お母さん死なないでね。」と言ったことがあった。あれは小学校5年の夜だ。何故かふいにその言葉が口をついて出た。母は「そんなことを言ってくれるのはゆかちゃんだけだよ。」と言って泣いた。母は死にたいのだろうことは察していた。
私は三姉妹の末子だが、結婚した長姉の置いてった日記で、実は四姉妹であると知っている。ほんとうの長姉は死んだ。死産だったらしい。そして母には親がいない。俺は何も知らない知らされない。母は癌で死んだが、何の癌かは未だに知らない。