スティーブン・バクスターの"The Thousand Earths"(2022)を読了。『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』のようにまったく異なる二つの物語が最終章で結びつく構造。一方は宇宙SFで、宇宙飛行士のハケットが亜光速飛行で往復500万年のアンドロメダ銀河探査へと旅立つ。もう一方は異世界ファンタジーで、円盤状の平面世界に住む少女メラの半生を描く。その世界は、周辺から『潮(Tide)』と呼ばれる正体不明の白い霧に浸食され、滅亡に瀕していた。
特にメラのパートが面白かった。自分の世代で世界が終わることが確定している人の独特の心理状態が良い。物語の駆動要因としてよく使われる恋愛も出てこず、妹も途中で亡くなり、そのあと半分くらい特に動機なしでひたすら『潮』から逃げる放浪記となる。
だが、肝心の二つの物語の交差が、『魔術に等しい超科学』を使ったかなりやっつけ仕事になっており、カタルシスは得られなかった。異世界の正体も王道の人工世界であり、『世界の見方が反転する感覚』はなかった。宇宙SFパートのなかに『すべての星は知的生命体である』という大ネタが出てきたが、それとファンタジーパートが密接に結びついていなかったのは惜しいポイント。