新約聖書の中で断トツで好きなシーンは、ペテロが鶏の鳴き声を聴いて号泣する場面。罪悪感と自己嫌悪で、人生のどん底まで落ちた瞬間だったと思う。数十年後、“Quo Vadis,domine?”と尋ねた時のペテロの脳裏に何がよぎったか。もう二度とあんな思いしたくない、という気持ちは想像にかたくない。
でもそれ以上に、イエズスの気持ちを考えると泣けて仕方がない。先生を裏切るわけないじゃないですか!と言ってくるこの弟子たちを前に、「でもこいつらみんな蜘蛛の子を散らすように裏切るんだよな」と、知ってしまっている気持ち。この寂しさ、この孤独、この絶望は、想像を超える。
30年間、心をとらえて離さない箇所。