ああ、そういえばこの時代の廃校舎をイノベーションしてホテルにしたり、美術館にしたり、アーティストの共同アトリエなどに利用したものですよね。そうでなくても小学校に泊まるって、どうしてああも非日常感があったのでしょう……なんて思いついたら止まらなくて、気づいたら内見の申請出してたんですよね。だって憧れるじゃあないですか。廃校を拠点にする組織って! めちゃくちゃテンション上がるでしょ!
そういうわけで数日のうちに申請が通り、巴さんと博多さんがついてきてくださいました。「ご主人が変なとこで無駄遣いせんよう見張るのが仕事じゃけん」と言っていましたが、私は知っています。博多さんも廃校を本丸にするっていうシチュエーションにものすごくワクワクしていたことを。あと、私はそこまで無駄遣いはしません。ちょっとお財布の紐がゆるむときがあるだけです。
私たちが見たのは旧北海道地方に建てられた小学校のモデルでした。広い校庭にコンクリート製の、しかし少しばかり古い建物。内部もよく見知った、いわゆる小学校の教室や廊下が連なり、図書室や職員室があったであろう空間が見て取れました。
「現代の学舎とはこういうものだったのですねえ」としみじみと言う巴さんに「そうだったんですよ」と答えようとして、私は言葉を詰まらせていました。
その楽しみは実装まで待ってもらうことにして、私はふたりを促して帰途につきました。
「帰ったら皆さんを呼んで、間取りの改修の相談をしましょうか」
「たのしみばいね」
三人で本丸インスタンスに戻る手続きをしながら、設計なら彼に相談するのも良いな、とふと思いました。彼はきっとちょっと呆れた顔で「小学校っすか、なんからしいな~」なんて言いながらも、きっと改築の相談にのってくれるに違いありません。
「主人、なんかおもしろいもんでもあったと?」
「ふふ、いいことを思いついたんですよ」
また悪だくみばいね、とつぶやく博多さんに合わせて私も笑うと、「俺も仲間に入れてほしい……」と控えめな声が聞こえました。悪いとは思いつつも笑いながら、私はもちろんですよ、と答えました。
#鳥籠のネタ帳
#鳥籠本丸百景
そうだったんですよ、私がまだ幼かった頃、たしかにこんな教室で授業を受けて、校庭で遊び、同級生たちと流行りのゲームや漫画の話をして、放課後には誰かの家に集まるために一目散に校庭を駆け抜けて。
私のような子どもたちの、そして人間の、たしかにそんな生活がここにあったんだなって。そんなふうにふと思ったんです。
私の守らなければならないものは、そういったものの上に成り立っているのだと。それを思い出した気分でした。
「ご主人、どうしたと?」と心配そうに見上げてくる博多さんに「何でもないですよ」と笑って、「どうですか、ここを本丸にするのは」と尋ねました。
「広さは申し分なか。薙刀連と槍連には、ちっと天井の高さが足りんかもやけど」
実際、巴さんは教室を覗き込むのにすこし屈み込んでいました。
「そこは改装する際にどうにでもなりますよ」
「じゃあよか。俺もここ気に入ったばい」
巴はー? と博多さんが声を投げると、巴さんは教室のひとつから顔を覗かせて「俺は主が良いならそれに従おう」と言っていました。でも、私にはわかりました。あれはまだ建物を隅々まで見てみたいという顔です。