添えたお話(長文) 

ある山奥の村の、お屋敷の庭の大木のおはなし。

いつの頃からか、その木には鳳凰が住みついていました。
木の枝ぶりは翼を広げた大きな鳥のようでしたから、葉が赤く色づく季節にはまるでつがいのようだと人々は口を揃えて褒めたたえていました。

しかし、戦乱の世。
山奥の平和だった村にも戦火は広がり、お屋敷と木は炎に呑まれ、鳳凰は落ち武者に追われて村を去りました。

時は移って平安の世。
焼け跡には再びお屋敷が建てられましたが、庭にかつての木はなく、鳳凰の姿もありません。
人々はたいそう嘆き、悲しみました。

お屋敷が建ってからしばらくして、家人がある不思議に気づきます。

お屋敷のある部屋の中から、庭に面した障子にかつての木の影が映っているではありませんか。
慌てて障子を開けても、お屋敷を立て直した時に造園した庭があるばかり。
しかし、障子を閉めるとそこには、焼けて失われたはずの木の影がくっきりと映っているのです。

あれはきっと自身のかたわれである鳳凰が戻るのを待っているのだと、焼失してなお相手を想う木の心に人々は静かに涙をこぼしたとのことです。

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