三
頼もしき鎖骨を右手にぼくは山を登る。
登る、登る、登り続けている。
さまざまの鳥が鳴き交わし、産み出すメロディが耳を撫ぜる。海を根城とする鳥。山を拠点とする鳥。川や畑を足場とする鳥。皆が一斉に山へ集い、合唱を始めたような趣だ。今宵の夢からは賑賑しさを感じられる。複雑なメロディはぼくの全身に心地よく染み渡る。手には頼もしい杖を。耳には快い音楽を。励ましを携えてぼくは歩を進める。ひたむきに。一心に。無心で足を動かす。山道は時折、ゆるやかに右へ左へ折れてぼくを楽しませる。進路があちらへこちらへ揺れるにつれ、潮の匂いが濃くなったり薄まったりする。海へ近付いていることは確実だ。
それにしても、と、ぼくは夢のなかで思案する。お母さんの言い付けを破ったぼくの目的は?ほんとうは反抗したくて、叶えられなくて、夢で発散している?いずれも違う。海で待っているのだ。
山を登るとき、ぼくは決まって、お台所から拝借した握り飯を風呂敷へ包んで提げていた。思い出の通りに夢のぼくも風呂敷を提げている。山の中ほどに到達する。足元で乾いた音を立てる落葉が紅く染まっていることから、夢中の季節が秋だと知れる。適当なところへ腰を下ろす。握り飯を頂いたら帰ろう。行って、食べて、帰る。単純な行軍だ。やわらかそうな場所を選んだつもりだったけれど、かさついた葉が袴越しに刺さる。刺々しい痛みを感じられる。風呂敷を広げようと膝を揃えて気付く、この袴は帝都で暮らすぼくへの手向けにお父さんが仕立ててくれたものじゃないか。
袴は幼いぼくに、しっくりと馴染む寸法に縮んでいるらしい。夢というものは、やはり、時間が出鱈目になるんだなあ。ひとり感心しながら風呂敷包みを開く。握り飯の代わりに出てきたのは鎖骨であった。
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こちら↑のワードパレットの12と『夢十夜』を絡めた感じで
抄訳冒險と覺悟な雰囲気かなあっていうんが暫定
刀の二次創作で、連ツイをまとめる形式を見かけたので ここでまねっこしてみる…🖋
守ることは
・体調を優先する
・時間がかかってもいいからとにかく完結させる
⚠ネタバレ注意 spoiler warning for AA&TGAA|over25/🔞adults only/左右非固定