古い監獄の敷地内にグミ(茱萸)の実が落っこちていた。
もちろん忽然と出現したわけではなく、通路近くの茂みには元となる樹が生えていて、枝から地面に落下してきたのだろう。
実の、張り詰めたうすい皮は光を透かして、同じように半透明の果肉を輝かせ、磨いた宝石そっくりの姿を見せていた。
ぷるぷる、つやつや。
この手の美味しそうな果実、とりわけ路上に生えているものを目にするたび思い出されるのは、小学校の頃の記憶だった。
校庭の脇にはクワ(桑)の樹があり、時期になると実をつけた。
私達児童は学校にいる間、わりと「おやつ」に飢えていて、ときどきその樹から実をもぎ取り丹念に洗っては食べていた。
田畑の多い地域にある、田舎の学校。
そこである年、種類は失念したが蛾の毛虫が大量発生してしまい、季節ごとに殺虫剤を散布することとなった。
結果どうなったのかというと、小学校内に植えられた樹木には薬品の影響を考慮して近付けなくなり、私達がクワの実を食べる機会も特になくなったのであった。
毛虫の被害に遭わずに済んで良かったけれど、すっかり幻と化した「小学校のクワの実」の味は忘れることができない。
何らかの物語をじっくり味わっている個人のあやしいアカウントです。