陽色の口づけ
「ただいまー、って言っても誰もいないんだけど」
「お邪魔します。……今なんて言った?」
あのあとロックマンが家まで送ると言い張るので、一緒にいられるのが嬉しくてお願いしてしまった。手を繋ぐかという提案には勘弁してくださいと答えたけれど。到着してロックマンが帰ろうとしたところで急にみぞれが降ってきた。予報では一日晴れだったので傘を持っていなかったロックマンを「そのうち止むわよ。買った本でも読んでたら?」と引きとめて腕を掴みつつ玄関の扉を開けると、何故か奴が固まった。
「ご両親はすぐ戻ってくるんだよね?」
「明日まで出張中よ」
ロックマンは何やら頭を抱えていたが、私がくしゅんとくしゃみをすると慌てて「早く温まって」と言われた。出かける前に暖房を消したばかりでまだ暖かいLDKに移動して暖房とこたつのスイッチをつけ、アイスを冷凍庫に放り込む。コートをかけてロックマンにこたつをすすめた。楕円形のこたつの少し離れた位置に座って他愛もない話をしていると、ぬくぬくと温まってきた。
「ヘル、アイス食べたら?」
「無理って言ったでしょ」
楽しげな声の方を睨んだらいつのまにかすぐ隣にいて、おひさまの香りと共に唇が重なった。
「今みたいな味がするのかな」
馬鹿。これじゃ雪色じゃなくて陽色の口づけだ。
#1T67SS
雪色の口づけ
日曜日の昼過ぎ、帰り道にあるスーパーからヘルが出てきた。
「ロックマン!?なんでここに」
真っ赤になって買い物袋を背に隠す彼女は今日は何をやらかしたのだろうか。
「本屋から帰るところ。君は何を買ったの?」
「ア、アイス!溶けないうちに帰るから、また明日!」
吐く息も白くなるこの気温でそんなに慌てなくても良いと思うのだが。三日前にヘルから告白されて恋人になって以来、彼女はいつも落ち着かない様子だ。
走り去ろうとしたヘルがバランスを崩したのを背後から抱きとめる形で支えると、コート越しにも彼女が固まったのが分かる。密着したままだと会話にならないだろうからヘルを解放する。
「うちの方が近いから遊びにこない?」
「やだ。あんたの家全館床暖だからこたつないんでしょ」
せっかく会えたのだからもう少し一緒に過ごしたいと思ったが、冬のアイスはこたつで食べるのが一番だと力説されて振られた。半透明の袋には新発売のアイス。CMによると謳い文句は雪色の口づけ。
「こたつはないけど僕の部屋も暖かいよ」
エアコンも使って室温を上げまくろうと決意して再度誘うとヘルがますます赤くなった。
「……CMの口づけって言葉思い出して意識しちゃうから、あんたと一緒にいる時食べるのは無理」
……うん、君が可愛すぎて無理。
#1T67SS
素直じゃない彼らの攻防戦
最近バレンタインという異国の風習が話題になっている。女性が想い人にチョコを渡して告白するという行事らしい。愛を込めて恋人や伴侶に渡す場合もあるようなのでナナリーも飯食い友達に渡すつもりで準備していたはずだが、そう簡単に事が運ばないのがあの二人である。ハーレで人目も憚らず痴話喧嘩を繰り広げていた。
「君さ、何か僕に渡すものない?」
「……ないです」
「フェルティーナの家でチョコケーキ作ったらしいけど、一体誰に渡すつもり?」
眼光鋭く睨んでいるが会話の内容はチョコのおねだりだ。尋問みたいなことをせずに素直にほしいと言えば良いのに。なんで知ってるんだと悲鳴を上げた親友がすごい勢いでこちらを向いた。ニケなの!?と顔に書いてあるので首を横に振って否定する。絶対サタナースの仕業だ。
「誰にも渡さないわよ!」
「もしかしてお腹がすいて自分で食べた?」
「違ーう!とにかく渡せないの!私には無理!!」
しばらく攻防が続いていたがやがてナナリーが押し切られ、小さな箱を取り出す。潤んだ瞳でロックマンを見上げ……
「チョ、チョコと一緒に、私も食べてっ」
ロックマンが固まり、あちこちでいきなり物が燃えた。バレンタインは例の台詞を言うのが決まりだと吹き込んだ銀髪男は後日盛大に髪を燃やされた。
#1T67SS
まほうけの67にはまっています。字書き初心者です。成人済です。