種付けおじさんの朝は早い
「好きで始めた仕事ですから。」
自家受粉が出来ない自家不和合性である植物を受粉させるには人の手が必要だ。だが、農地に他の木を植えては収穫量が減少してしまう。
「昔は色々植えられたんですけどね」
彼の目は少し悲しそうだ。今は安い輸入品のリンゴが溢れているせいで、質を高めても少しでも安くないと見向きもされない。質と価格を考えると1つしか育てられないのだ。
「でも、やっぱり日本の美味しい果物を食べて欲しいですから」
彼はそう言うと朝靄の中、樹々の間へ梯子を掛け種付けをするのだった。