『ピンク・クラウド』ネタバレ続き
基本的にこの状況が耐えられない女と、どこか楽観的で仕方ないと状況を受け入れる男。基本的に性格のあわないことが示唆される二人。
異常な状況に理不尽さを覚える女性が現実逃避のように描かれる皮肉に、「当たり前の怒りを覚える事がヒステリー扱いされる」ことのメタファーを見るのはあながち間違いではないだろう。
そしてそれ以上に大事なのはこれが「どちらが正しいのか?」などという話ではない点。
良いか悪いかお構いなしに日々がすぎていくし、意見の異なる人間同士が共に生きていくという人生の一側面を面白いかたちで切り取っている。それが見事。
ただ、その分話のオチをどう捉えたらいいかは迷うところではある。
『イニシェリン島の精霊』は、20世紀前半の孤島で住む男がいきなり友人から絶縁宣言されて……という導入からはじまる話。『スリー・ビルボード』の監督の最新作です。同様にネタバレは以下に格納。
良いやつが面白いやつだとは限らないという悲しいジレンマをこうも最悪の話に仕上げられるのかというのが見事。
矛盾した二つの顔を持つキャラクターこそが魅力というのがロバート・マッキーのストーリー論だったが、本作はその辺りが上手かった。
相手の言葉を都合よく解釈して友人の「話しかけるな」という言葉を無視する男。
「後世に残る音楽を作りたいお前のつまらない話を毎日聴いて時間を無駄にしたくない」と言いながら、「お前が俺に話しかけて来たら俺は俺の指を切ってお前に送りつけてやる」と脅してくる音楽家の男。
極端な行動のやりとりが次第にすれ違いをエスカレートさせて、決定的な「ポイントオブノーリターン」=取り返しのつかない事態が訪れることで立場が逆転してしまう。
『スリー・ビルボード』でもそうだったけど、この監督の作品は「自分の行動が生み出す結果が、想像の埒外まで飛躍してしまう」ことへの戸惑いを描くのが本当に上手い。
脚本的には、「このシチュエーションで話を転がすならどんなキャラ配置にする?」という問題への模範解答みたいな趣があるので創作やる人にもおすすめ。
https://youtu.be/zoJwhMK0y2U