映画館で『ピンク・クラウド』と『イニシェリン島の精霊』をはしごしてきた。以下ツリーにて感想

『ピンク・クラウド』は、触れれば死んでしまう原因不明の雲が世界中に蔓延し、部屋から一歩も外に出られなくなった世界で生きることを強いられた人々の話。 この枠組みの話でありながら撮影されたのは19年だったという。ネタバレは以下に格納 

設定上の細かなツッコミだけでなく、時間的省略も大胆にやるのが実に映画的で良かった。ワンカット飛ぶといきなり数年時間が飛んでたりする。

いきなりロックダウンされたから、様々な状況下の人々が出てくる。老人と看護師・一人の保育士・友達の家に集まった女の子ら。
しかし基本的にはワンナイトした男女の生活が描かれ、他の人々はオンライン通話からしか様子が描かれない。なんなら人によっては連絡が取れなくなるし、何らかの事件や事故が示唆されるが詳細はわからない。そういった不穏さがじわじわと嫌な話として記憶に残る。

で、上手いなど思うのがこの「ピンク色の雲」という設定で、昼の映像が常にピンク色がかって見える。このことによってどこか幻想的な雰囲気が生まれるのが面白い。寓話的でもあり、マジックリアリズム的でもある。

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『ピンク・クラウド』ネタバレ続き 

基本的にこの状況が耐えられない女と、どこか楽観的で仕方ないと状況を受け入れる男。基本的に性格のあわないことが示唆される二人。
異常な状況に理不尽さを覚える女性が現実逃避のように描かれる皮肉に、「当たり前の怒りを覚える事がヒステリー扱いされる」ことのメタファーを見るのはあながち間違いではないだろう。
そしてそれ以上に大事なのはこれが「どちらが正しいのか?」などという話ではない点。
良いか悪いかお構いなしに日々がすぎていくし、意見の異なる人間同士が共に生きていくという人生の一側面を面白いかたちで切り取っている。それが見事。
ただ、その分話のオチをどう捉えたらいいかは迷うところではある。

脚本的には、「このシチュエーションで話を転がすならどんなキャラ配置にする?」という問題への模範解答みたいな趣があるので創作やる人にもおすすめ。
youtu.be/zoJwhMK0y2U

『イニシェリン島の精霊』は、20世紀前半の孤島で住む男がいきなり友人から絶縁宣言されて……という導入からはじまる話。『スリー・ビルボード』の監督の最新作です。同様にネタバレは以下に格納。 

良いやつが面白いやつだとは限らないという悲しいジレンマをこうも最悪の話に仕上げられるのかというのが見事。

矛盾した二つの顔を持つキャラクターこそが魅力というのがロバート・マッキーのストーリー論だったが、本作はその辺りが上手かった。
相手の言葉を都合よく解釈して友人の「話しかけるな」という言葉を無視する男。
「後世に残る音楽を作りたいお前のつまらない話を毎日聴いて時間を無駄にしたくない」と言いながら、「お前が俺に話しかけて来たら俺は俺の指を切ってお前に送りつけてやる」と脅してくる音楽家の男。
極端な行動のやりとりが次第にすれ違いをエスカレートさせて、決定的な「ポイントオブノーリターン」=取り返しのつかない事態が訪れることで立場が逆転してしまう。
『スリー・ビルボード』でもそうだったけど、この監督の作品は「自分の行動が生み出す結果が、想像の埒外まで飛躍してしまう」ことへの戸惑いを描くのが本当に上手い。

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