何度も新しい土地で生活をはじめることは、物質的蓄積がまったくなくなることの繰り返し。
空っぽの空間で、自分が今までやってきたことって何だったんだろうと思うことがある。土地と結びついている記憶も薄れるような気がする。
だからわたしのとっては、翻訳という同じ作業をやり続けることがすごく重要。何かが蓄積される感覚。本や物語の中に、訳文に、原文に、わたしの暮らしの記憶が忍び込んでいる。
だれに読まれることがなくても翻訳し続けてきたけれど、縁があって、自分の力だけでは届けられない人まで物語を届けられるのであればなおさら、ひとつひとつの言葉を大切に、原著者と読者を大切に伝えていきたいと思う。