「男だろ!」は一昨年も批判されていた記憶だけど、このフレーズは明確に(性別二元論を前提にした)「女にはできないが男にはできる」「女ではなく男であることを示せ」という性差別の前提に立つ言葉。これがいつまでも"名文句""カリスマ"と紹介され、タイトルにまで使われ、「言えない話ばかり。何回泣いたかな」という"厳しい指導"が美談として紹介される背景に、男性優位でホモソーシャルなスポーツという領域が、性差別やハラスメントを"例外"として許容してしまう問題があるし、前述のような表現が記事で無批判に取り上げられるあたりメディアの責任も大きいと思う。
https://mainichi.jp/articles/20230103/k00/00m/050/030000c
今年の年末年始はネトフリのWednesday Addamsを見て過ごした。ティム・バートン作品はシザーハンズ以来だけど、ぐいぐい引き込まれて一気見してしまった。
サントラも良いのだけど、ウェンズデイがチェロで弾くPaint it Blackが入ってないのが残念。これ最高にカッコいいんだよなあ。
https://www.facebook.com/NetflixANZ/videos/1201923754071104/
以前とある書評で、トラウマの歴史の意義の一つに、同時代の中では自分と同様の体験者を見つけにくい当事者にとって、歴史の中にピア(仲間)を発見する可能性を持つかもしれないということを書いたことがあるけれども、Lambeや同論文で参照されているジャーナリストのAnne Thériaultがいうような、同じ困難に直面した時の「道しるべ」としてのmad ancestorsを歴史の中に見出すという話はつながりがありそう。
Thériaultはシルヴィア・プラスやジョージ3世などの著名な人物を例にあげているけれども、私は社会史でそれをやりたいなと思っている。
ただしThériaultは、mad ancestorsを探すことは、現代人が精神疾患を理解する方法をそのまま過去にあてはめてしまう非歴史的なアプローチにつながる問題があることも指摘している。
https://thecorrespondent.com/570/knowing-our-mad-ancestors-why-its-time-to-look-again-at-mental-illness-in-history
こうした陥穽に陥らないように、アーカイブの情報源と現在の私たちの認識の間の非整合性や矛盾を認識することが重要だ。
Ariel Mae Lambe, Seeing Madness in the Archives, The American Historical Review, Volume 127, Issue 3, September 2022, Pages 1381–1391, https://doi.org/10.1093/ahr/rhac293
自己の生きられた経験を通じて、歴史家が自身の精神疾患について沈黙することと、沈黙を破ることの意味を考察した論文。
現在においても過去においても、エイブリズムは疾患や障害の非開示や沈黙を生み出してきた。本文中で紹介されているある調査によると、267名の精神障害や精神疾患がある(又は過去にあった)と自覚する大学教員のうち、34.1%はキャンパス内の誰にも自分の障害や疾患について話していない。
エイブリズムは、歴史家自身だけでなく、アーカイブズにも狂気や自殺について沈黙することを強いることがある。暴力的に文書を排除するのではなく、単に「そのことについては触れないでおこう」とスティグマ化することでこうした沈黙は作り出される。
途中でメモしたい情報とかセリフがあって、スマホを開くわけにはいかないので、暗闇でチケットに万年筆でメモした。つもりが、インクが切れてる方の万年筆だった…筆跡は残っているだろうから、鉛筆でこすってなんとか浮かび上がるかなぁと古典的な方法を試す。
This is と in Gazaはわかり、how we foughtだったかな…と三日前のおぼろげな記憶の欠片と、breaking the silenceを組み合わせて検索したら、激しいバッシングのきっかけになった報告書を無事発見。しかも全文PDFで公開されている。素晴らしい。
https://www.breakingthesilence.org.il/pdf/ProtectiveEdge.pdf
専門は歴史学(日本近現代史)。戦争で心を病んだ兵士と家族の戦中・戦後の歴史を研究しています。 主著に『戦争とトラウマー不可視化された日本兵の戦争神経症』(吉川弘文館、2018年)。 Historian of war, trauma and gender in modern Japan | Associate Professor at Hiroshima University