3つ目)報道するなら真面目に報道しろ。トランスジェンダーの性別承認法の緩和・改正という主題に対しては「気軽な性別移行が増える」だの「女性を偽る男性がトイレに」だの、訳のわからない反対論を口にする人がいる。政治家にもいる。自分のIDの性別がある日書き変わったと想像してみたらいい。女性や男性として生きているのに、IDにそれと異なる性別が表記されていたら?その状態で就活、受験、就労、結婚…してみたらいい。どれだけ面倒なことになるか。それが、少なくないトランスの人たちが置かれている現実。その困難が理解できないから「気軽な性別移行」などと口にするのだろう。また性別承認法をめぐってトイレがどうのこうのと無関係なことを言う人たちの、合理性のかけらもない主張を、わざわざこの話題を報じるときに付記するな。トランスジェンダーの生活、命、権利の問題を報じるときに、差別的思想を前提とした無関係のヘイト言説を付記するな。報じるなら真面目に報道しろ。「対立する意見」の合理性を精査することなく、両論併記のような言い訳をしながら差別的偏見の上塗りに荷担するな。真面目に報道できないならメディアとしての存在意義などない。
2つ目)これは生殖の権利を侵害する要件であり、リプロダクティブ・ヘルス&ライツの問題である。そして、より広く、国家による生殖の管理という問題の一側面である。誰が子どもを産んでよく、あるいは誰が子どもを産むべきであり、誰が子どもを産むべきでないか。人々のあいだに線引きを行い、国家がさまざまな仕方で生殖に介入すること、そしてときには、こうして不妊化を強いるといったことは、歴史的に様々な集団に対して、様々なかたちで行われてきた。特例法の不妊化要件にもっとも近い発想は、優生保護法に見られるもの。その法律によって、認知機能に障害のある人や統合失調症の人、貧しい人や、ろうの人たちが、不妊化のターゲットにされた。そして生殖の権利・生殖の自律の侵害という意味では、刑法堕胎罪や、中絶がその堕胎罪の例外となるための基底としての配偶者同意要件なども同じである。だからこれは、トランスジェンダーという特殊なマイノリティの困りごとを解決するため、ではない。これは性と生殖の健康と権利を守り、国家による生殖の管理からの解放を目指す全ての人の闘いの一部である。その視野をもってこの問題を考えて欲しい。
1つ目)あなたたちは今日の会見を「マイノリティの人たちが法律を変えてほしいと訴えました」と報道をするだろうが、それは考え方の基本を間違えている。トランスの人たちに、法律を変えてほしい理由を説明させるな。そうではなく、考えるべきは、この社会がこの不妊化要件を法律に存置させることの理由ないし正当性である。社会が混乱するから、などと抽象的な理由を挙げて、不妊化要件の正当化は図られるが、ではその正当化理由は、トランスの人たちから生殖能力を奪い、生殖の権利や身体的統合性への権利、私生活を営む権利(家族を形成する権利)、受けたくない医療措置を受けない権利、不妊化を伴う性別適合手術を受けるにあたっての真正な同意を与える環境を守られる権利よりも優越するのか。それを考えて報道して欲しい。これらの権利を踏みにじるだけの正当化理由を、この法を維持することで得られるとされる利益は上回っているのかが、いま問われているということを忘れないように、報道の仕方を考えて欲しい。
不妊化要件(手術要件)に関する最高裁の意見聴取を前に行われたLGBT法連合会の記者会見に出てました。
東京新聞)https://www.tokyo-np.co.jp/article/279862
時事通信)https://sp.m.jiji.com/article/show/3057174
NHK)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230926/k10014207021000.html
朝日新聞)https://digital.asahi.com/articles/ASR9V6HPMR9VUTIL00W.html
わたしはトランスジェンダーの性別承認法における不妊化要件についての研究をしている倫理学者としての登壇でしたが、詳細は論文に書いたので、今日はその場にいる記者さんたちに向けて、3つの話をしました。(続く)
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