ティムール・ダダバエフ&園田茂人 編『ウズベク移民と日本社会』(東京大学出版会、2023.6)を読みました。筑波大学の教授および博士のウズベキスタン人複数人が執筆しており、とても勉強になりました。
ネパール、フィリピンと並び、海外での出稼ぎが盛んな国ウズベキスタン。2010年代後半から来日者が急増し、現在は約4000人が日本で暮らします。多くが若い男性が勤労学生として仕送りしながらキャリアアップを目指します。
本書の中核となる3章は、筑波大学で博士号を取得したムカッダム・アフメドヴァ氏が執筆しています。
第3章 教育から労働へ――教育=労働移民の現実
第4章 越境するジェンダー――女性移住者の経験
第5章 文化実践としての国際移動――「ウズベクらしさの力学」

本書によると:
第1希望での就学・就労に失敗した人が、親戚のススメや稼げるという業者の甘言にのって来日あるいは来韓を選んでいる。
また、海外での勤労学生生活は、イスラム教由来の現代ウズベキスタンの道徳観念では、男性が異郷で困難や誘惑に打ち勝って成長して帰る【修行】と見なされている。ゆえに集団居住や勤労学生、勉強、語学の壁といったすべての困難は短期的な試練と見なされ、だからこそ厳しくても耐えるのだ。
u-tokyo.ac.jp/biblioplaza/ja/J

「第4章 越境するジェンダー」は当初は書かれる予定がなかったテーマで、しかしアンケート結果を見て追加された章だという。
実施した在日ウズベキスタン人、在韓ウズベキスタン人へのアンケートの回答者の8割は男性だった。その理由は:海外出稼ぎの、男を上げて故郷に錦を飾る修行としてのイメージ。家長や地域の権力者の許可を得なければ女性は出国できない。女性の結婚適齢期が20-24歳である、海外行きは誘惑や事件に巻き込まれて貞操を失う危険があると考えられるから。
実際、共著者のムカッダム氏が大使館で開催された在日ウズベキスタン人会のイベントに行ったら40人中女性は彼女ひとりで、大使館関係の女性数人は男性たちの会話の輪とは分かれてしゃべっていたという。
しかし匿名のアンケート回答者の中には、来日した後にウズベキスタン人男性あるいは日本人男性と離婚し、日本でひとりで生きていくことにした女性もちらほらとはいる。同性愛者の女性が、ウズベキスタンはよりひどい状況なので帰国しないという話をしてもいる。

「ウズベクらしさ」というアイデンティティは、集団の協調を大事にして年長者のいうことを尊び、よく道徳を守り、「行間を読む力」で集団の和を保つこと等らしい。
このへんは東アジアの儒教と似ているように思いました。(「行間を読む力」という概念の単語の登場にちょっと苦笑してしまいました)

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本書によれば「ウズベクらしさ」アイデンティティは、異国においてもウズベキスタン人同士で暮らしを完結させ現地に順応しない傾向をもたらしているそうです。そして、国内の多民族性に目を向けずに民族アイデンティティの美徳や独自性を語る傾向や、排他性が日本で語られる「日本人らしさ」に似ているという分析も。
近年、都内23区東部(大久保、中野、高田馬場)にウズベキスタン料理が増える背景が気になって手にとったのですが、きわめて充実した貴重な内容でよかったです。ウズベキスタン人がインターネットで外国語を使って情報を得る際、約8割はロシア語で検索するとかね。

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