【ほぼ百字小説】(5475) 自転車でまっすぐな広い道を走って港を目指す。港の近くで昼間から劇の練習をするのだ。今日は衣装を着てやってみる。秋のはずだがまだまだ暑い。口の中で台詞を転がしながらペダルを踏み続ける。夏休みみたいだな。
 

【ほぼ百字小説】(5474) ようやく秋らしくなって物干しも涼しくなり、物干しで亀と話す時間も増えた。冬眠にはまだ早いが、もう何も食べなくなるこの時期、それでも亀が近づいてくるのは、話したいことが溜まっているのだろう。お互い様だ。
 

【ほぼ百字小説】(5473) 自分で自分を掘っているのは自分を掘り出すため、というのはわかっているが、もし自分を掘り出してしまった場合、この自分をどうすればいいのか、というのは自分でもわからない。まあ掘り出した自分に聞けばいいか。
 

【ほぼ百字小説】(5472) 機械の中から虫の音が、と驚いたが、虫が鳴いているのではなく、機械の音の中にこちらが勝手に虫の音を聞いてしまうらしい。そんなふうにして我々の脳は、失われた様々な音を聞けるのだ。そのための機械なのだとか。
 

【ほぼ百字小説】(5470) 稽古場にしている区民センターから駅までの近道を教わる。公園を抜け、路地を歩き、パチンコ屋の裏口から入って台の間を通って反対側のドアから出ると、道の向うは駅の改札。しかしどうやってこの道を見つけたのか。
 

【ほぼ百字小説】(5469) スマホを持つようになってもまだ古いデジカメを持ち歩くのは、たまに撮った覚えのない写真が入っているから。なんでもない空や雲や道端の草の写真だが、それがどこなのかわからない。こういうのも心霊写真なのかな。
 

【ほぼ百字小説】(5468) ずっと探していた。この世界が舞台のようなものだとすれば、神の視点の客席からも観測できないそんな場所がどこかにあるはず、と。そして見つけた。やはりあの世界は舞台だったのだ。今、楽屋でそんな話をしている。
 

【ほぼ百字小説】(5467) もう秋になってもいいはずなのにずっと真夏みたいで、狸にでも化かされているのかも、とか思っていたら、雨の後いきなり涼しくなって、ようやく秋が来たのかそれともこれも狸の化けた何かか。空には尻尾みたいな雲。
 

【ほぼ百字小説】(5466) 廃物で作られた天使が迎えに来た。翼はどこかに捨てられていた鷹の剥製のものだろう。見覚えはあるが、どこで見たのだったか。頭の上の輪は、缶詰のパイナップル。垂れた汁が、額を濡らしている。できたてなのだ。
 

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