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【ほぼ百字小説】(4888) 燃えるような夕焼けなのではなく、実際に西の空が燃えている。そう知っていても、この夕陽の綺麗な丘から見事な夕焼けを見ているのだと思い込むことはできる。たぶん、まだあと何日かはそうすることができるだろう。

【ほぼ百字小説】(4887) 見渡す限り続く湿地の中の一本道で、大気は有毒だしすれ違えるだけの幅はない。途中で対向車と鉢合わせしたら、こちらが引き返すか向こうに引き返してもらうしかないが、それでも誰かに会うとほっとするものらしい。

【ほぼ百字小説】(4885) 高枝切り鋏を貰いに行く。受け取り場所が大きな公園の近くなので、ついでにラッパも持って行く。片手にラッパ、片手に鋏を持って午後の公園へ。ラッパと鋏は使いよう、という言葉が頭に浮かんだが、意味はまだない。

【ほぼ百字小説】(4884) 底の抜けた世界を買い漁っている者がいるらしい。そんなもの、いったい何に使うつもりなのかはわからないが、わからないまま真似をして買う者も出てきていて、それで最近は底の抜けた世界の価格が急騰しているとか。

【ほぼ百字小説】(4883) いやあ、もう底抜けちゃってるからねえ。修理してどうなるもんじゃない。使い物にはならないよ。まあ底の抜けた世界の見本としてここに並べとくくらいかな。それでも役に立ってると言えなくはないだろ、他の世界の。

【ほぼ百字小説】(4882) 空き家が取り壊されて空き地になったそこに幽霊が立っている。いつも同じ位置だし背が伸びていくから植物のようでもある。空き地はセイタカアワダチソウに覆われたが、同じだけ背が伸びて首だけはその上に出ている。

【ほぼ百字小説】(4881) ラッパを持って公園へ。いつもの石に腰かけて、吹いたり読んだり飲んだり吹いたり、西日の中で小一時間。烏が騒ぐ時刻まで。今日はこのへんにしといたろ。ラッパを持ってきたようで、ラッパに持ってこられたのかも。

【ほぼ百字小説】(4880) 成功するのは、もう決まっています。起きたことにあわせて成功の定義を修正するのです。間違っていたとわかったから正すだけ。変えるのは問題ない。修正ですからね。皆さんが幸せになれるのも、もう決まっています。 

【ほぼ百字小説】(4879) 亀の甲羅は肋骨で、だから亀だけは肋骨の内側に肩甲骨がある。亀は進化の過程で骨格を裏返したらしい。裏返った亀の外側にあるものはすべて亀の内部だから
、亀の甲羅に世界が載っているというのはそういうことかも。

【ほぼ百字小説】(4878) 上り坂を飼っている。大きな地震があったとき拾ったのだ。外出のときもついてくるから、いつも上り坂の途中にいる。いつか下ることを考えて貯金のつもりで上り続けてきたが、今さらこいつと別れることはできないな。

【ほぼ百字小説】(4877) 敗者復活戦という言葉を聞く度に、真夜中の墓地で次々に地中から蘇った歯医者たちがいろんな器具を手に戦う様を頭に描いてきた。もちろん、復活した歯医者たちの頂点を決めるそんな戦いにおいても敗者復活戦はある。

【ほぼ百字小説】(4876) 家が立ち上がった。いや、家じゃない。あの大窓は宇宙服のフェイスプレート、エアコンの室外機みたいなものは生命維持装置。降り立った惑星で休息を終えた宇宙飛行士は今、大きな一歩を踏み出し、更地だけが残った。

【ほぼ百字小説】(4876) 家が立ち上がった。いや、家じゃない。あの大窓は宇宙服のフェイスプレート、エアコンの室外機みたいなものは生命維持装置。降り立った惑星で休息を終えた宇宙飛行士は今、大きな一歩を踏み出し、更地だけが残った。

【ほぼ百字小説】(4875) 怪獣を見に行った。いつからか怪獣にはあまり期待しなくなってしまったが、それでも怪獣が暴れているとなると見に行き、そして今回も、こういうのと違うんだけどなあ。まあ怪獣も変わったがこちらも変わったからな。

【ほぼ百字小説】(4874) 地元で幽霊トンネルと呼ばれるそのトンネルを通ればかなりの近道と聞き、昔からその類のものは見えないから大丈夫、とそのトンネルを抜けて来たのだが、幽霊が出るトンネルではなくトンネルの幽霊なのだと今聞いた。

【ほぼ百字小説】(4873) 坂の途中の店だ。坂の下から一気に駆け上がる途中で力尽きて振り出しに戻ったり、坂の上から狙いを定めて駆け下りたつもりが勢い余って通り過ぎたり。ずっとそんなことを続けていて、今さら石段を使う気にもなれず。

【ほぼ百字小説】(4872) 死体のように存在感のある大根を持ち帰る。死体のように重く、死体のように白く、死体のように冷たい。タイルの上に死体のように転がしておく。死体のようにバラバラにして、死体のように少しずつ確実に処理しよう。

【ほぼ百字小説】(4871) いつもの店までの道のあちこちで、猫が日向ぼっこする季節になった。猫たちは日向ぼっこにいい場所をよく知っている。暑かった頃に寝ていたところに今は猫影もないが、夜の集会は同じ場所らしい。猫の地図が欲しい。

【ほぼ百字小説】(4870) たまに不意打ちのようにあの風景が現れる。街中にぽかんと口を開けた空き地に草がざわざわと揺れている。その向こうにあるはずのビルの壁が無い。あわてて通り過ぎるが、いつかその風景の中に立つことは知っている。

【ほぼ百字小説】(4869) この物干しからはいろんなものが見える。台風で屋根が吹き飛ばされてからは、月と星、空と雲、たまに虹、そして通過する国際宇宙ステーションも。近所の家々の屋根とブロック塀の上にある猫たちの道。足もとには亀。

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