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【ほぼ百字小説】(5422) 個々の蟻にはたぶん自意識はないが、蟻塚全体をひとつの生き物として見れば自意識のようなものが感じられる。この私とは関係なく、そんなふうなものになったらおもしろいと思う。あ、百字小説の話ね、これも含めて。
 

【ほぼ百字小説】(5421) 猫のように見えるが、猫の形の夜なのだ。またすこしその数が増えて、またすこし夜に近づいた。星のように見えるのは猫の形の目の部分で、それらが渦巻いて星雲を作っていることから、猫の形の夜たちの運動がわかる。
 

【ほぼ百字小説】(5420) 鳥のように見えるが、鳥の形の夜なのだ。またすこしその数が増えて、またすこし夜に近づいた。翼のある夜の群れが、数を増しながら西から東へと移動していく。それがこの惑星の夜の正体。朝の正体はまだわからない。
 

【ほぼ百字小説】(5419) 早朝の港には月面から見た地球そっくりの月が浮かんでいて、白黒茶虎の猫たちとその子供たちと空をくるくる回る鳥たちや地上に直立する鳥たちが、二足歩行の連中が運んでくる魚をどの鳥より首を長くして待っている。
 

【ほぼ百字小説】(5418) 海まで続く急坂を夜毎夜毎、何かが転がり落ちていく。海岸に着いたときにはひとまわり大きくなっていて、そのままざんぶと海に入って戻ってこない。坂のてっぺんにはバブルの頃に建てられた豪華ホテルの廃墟がある。
 

【ほぼ百字小説】(5417) 子熊がのこのこと歩いている山道をいつも頭に描いていたが、もちろんそんなところではないし、看板に偽りあり、でもない。熊の子道でなく、熊野古道なのだ。まあそれはそれで違うシーンが頭の中に展開されているが。
 

【ほぼ百字小説】(5416) まもなくこの列車はふたつに分かれて、前半分は空港へ、後ろ半分は山へと向かうらしい。なるほどたしかに、前半分には翼が、後ろ半分には足が用意されている。進化のレールの向こうから、お別れの駅が近づいてくる。
 

【ほぼ百字小説】(5415) 亀の甲羅に刻まれた溝を見るたびに、もしかしたらそうなのでは、と思っていたが、やっぱりそうだったのか。ターンテーブルの上で三十三回転する亀の甲羅にそっと針を落とすと、再生される曲はもちろん、かめたいむ。
 

【ほぼ百字小説】(5414) 百字で作られた劇場で、劇場だからその中身の百字は常に入れ替わっている。常に入れ替わってはいるが、常にそこには百字があるから、それが劇場の形を保っていて、流れの中の渦のようなそれを仮に劇場と呼んでいる。
 

【ほぼ百字小説】(5413) 空き地にはありふれた金庫が落ちていて、納戸では謎のスナイパーがずっとターゲットを狙っている。ねこのラジオをチューニングすれば、聞こえるのはお馴染みのかめたいむ。ほら、交差点の天使もいっしょに歌い出す。
 

【ほぼ百字小説】(5412) UFOに連れ去られていた妻が帰ってきた。いろんなところを巡ってきたという。楽しげにいろんなところの
いろんな話をしてくれる。いい旅だったんだな。こっちは特に変わったことはなかったよ。それが何より、と妻。
 

【ほぼ百字小説】(5411) UFOに連れ去られた妻が、何事もなかったようにひょっこりと帰ってきた。見た目はなんにも変わらないの
だが、よく見ると地に足が着いてない。床にも着いてない。わずかに浮いている。妻ではなくヒト型UFOかも。
 

【ほぼ百字小説】(5410) 広範囲の停電が起きた。それを起こしたのは盗賊団で、そのあいだに彼らはこの街を書き換えた。だからもうこの街は以前のこの街ではなく、この街の住民は彼らに盗まれたのだ。今は、盗賊団の一味として暮らしている。
 

【ほぼ百字小説】(5409) 昨夜の雨で濡れて黒くなったアスファルトの上に、昨夜の風で散った無数の小さな赤い花が落ちている。それは、昔どこかで見た星空のようでしばし見入ってしまい、それにしてもそんな星空、いったいどこで見たのやら。
 

【ほぼ百字小説】(5407) 夕方、うどんを食いに行こうと娘と自転車を連ねて走っているその道中で、まるで秋空に引かれたような鮮やかで長くてまっすぐな飛行機雲に声を上げて、その夜あたりから暑さが和らいできた。季節は空からやって来る。
 

【ほぼ百字小説】(5405) うーん、虎かあ、と思う。まあ確かに能力は高そうだけど、いろいろと大変そうだし、猫くらいになれませんかね、なるべくかわいがられそうな。そう言うと、それができるくらいなら儂がとっくになっとる、と返された。
 

【ほぼ百字小説】(5404) どんな天使にも必ずその天使と対になる天使が存在していて、めったにないことではあるが、それらの天使が出会うと双方共に消滅してしまう。音も光も伴わない消滅で、それは天使に質量がないからだと考えられている。
 

【ほぼ百字小説】(5403) 連日の暑さのせいなのか、この夏もずっと物干しにいる亀の甲羅は、粉を吹いたように全体が白くなっていて、なんだか違う亀みたい、というか、亀ではない別の何かのようにも見える。でも、あいかわらず煮干しは食う。
 

【ほぼ百字小説】(5402) あの動物園に象はもういないが、象を撫でることはできる。壁の感触を頼りに暗闇を行くと、それがいつのまにか象の感触に変わる。運が良ければ象以外のもういない動物を撫でることもできるし、撫でられることもある。
 

【ほぼ百字小説】(5377) 百字で作られた話が塊になっていて、そこからときどき二百話ほどが切り離される。でもほぼ毎日、新しい話が供給されてくるから無くなってしまうことはなく、一種の動的平衡が保たれている。そういう生き物なのかな。

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