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【ほぼ百字小説】(4940) 折り畳み式だ。折り畳めば空間をかなり節約できる。じつは畳んでしまうともう二度と広げられないのだが、再び広げられるときなど来ないこともわかっていて、だからそれでも問題はない。それも折り込んだ折り畳み式。

【ほぼ百字小説】(4939) 伏線回収車が町内を巡回している。張るだけ張って忘れていたり、もはや回収する気もない伏線を回収してくれる。それはありがたいが、最近は種類によってはけっこうな金額を要求されたりする。昔は無料だったのにな。

【ほぼ百字小説】(4938) 狭い路地の両側は、エアコンの室外機が隙間なく積み上げられて壁のようになっている。ファンが回っている室外機もあれば、停止している室外機もある。それらすべてのファンが回転するときを、ずっと待ち続けている。

【ほぼ百字小説】(4937) たとえば、三十年間毎日同じ亀を見続けること。亀を見るのは簡単なことで誰にでもできることなのだが、どんな誰かがやっても三十年かかる。三十年間見続けるという行為のためには三十年が必要。まあ、そういうこと。

【ほぼ百字小説】(4936) スッポンではないが、うちの亀はよく月を見る。物干しにいるから、というのもあるだろうが、盥の水面から首だけ出して見ていたり、月光に甲羅を干していることも。今は水底で冬眠中のその盥の水面に月が映っている。

【ほぼ百字小説】(4935) 農業用水の溜め池だけど、沼って呼んでた。あそこで見上げる空はいつもどんよりしていて、怪奇映画の沼みたいだったから。今から考えるといつもどんよりしていたなんて変だよな。スタジオの中に作られていたのかも。

【ほぼ百字小説】(4934) 日向ぼっこをしている猫の影だ。綺麗な形の耳が二つ立っていて、冬の陽がその同じ形を地面に落としている。しなやかですべすべした尻尾は独立した生き物のように滑らかに宙を踊っているが、地面の影はなぜか二本分。

【ほぼ百字小説】(4933) ここ十年で、ろくでもないものが次々に作られ、必要だったものが次々に壊された。我々はその上で生きていて、ろくでもないものの一部になるという道を選んだろくでもないものたちが、その選択の正しさを誇っている。

【ほぼ百字小説】(4932) いつからか、この国の首相は都合の悪い質問をされると薄ら笑いを浮かべるようになった。昨日も笑っていた。今日も笑っていた。明日も笑うだろう。そして首相が変わっても、その笑みだけは変わらない。この国の顔だ。

【ほぼ百字小説】(4931) 象である。来るたびにその姿は変化し、この前より象らしさから遠ざかってはいるが、象だ。象のままでどれだけ象から遠ざかれるのかを試しているのか。そう尋ねても、象は象のように黙って象から遠ざかっていくだけ。

【ほぼ百字小説】(4930) 風景がやってくる。夕方のだいたいこの時刻に目の前を通り過ぎる。毎回違う風景だ。車窓から眺めるようにその通り過ぎる風景を見ているが、いつかどれかの風景の中に立つのだろう。そういう意味ではすべて同じ風景。

【ほぼ百字小説】(4929) 煎餅工場へ。蒲団を始めいろんなものがそこで煎餅化され、無駄なく収納できる。さらに我々も煎餅化することで煎餅化したものを利用できるとか。それで生まれる空間が何に使われるのかは知らないし我々には関係ない。

【ほぼ百字小説】(4928) 飛行機を見に行った。空き地にずらりと並んだとても飛びそうにない形状のものが順番に滑走して、道路の手前で離陸する。空き地の隅で一日中見ていたが、やっぱり乗る決心はつかない。ずっとこんなことを続けている。

【ほぼ百字小説】(4927) 路面電車なのだが左右には家も通りもなく野原だ。野原の向こうには、赤茶けた荒れ地のようなものが見える。停留所に着いたがまわりはやっぱり野原のままで、停留所しかない。動き出す気配もない。ここが終点らしい。

【ほぼ百字小説】(4926) 今年こそは幽霊を飼いたい。幽霊に餌は必要ないが、そこそこしっかりした住処と物語は不可欠だ。それなくして幽霊はその存在を確定させることはできず、まるで幽霊のように頼りない存在になってしまう。用意しよう。

【ほぼ百字小説】(4925) 初夢に、死んでしまった知人が何人も出てきた。いっしょに何かやっているその中に入って、同じ何かをやっていた。夢みたいに楽しかったのは、夢だからか。何をやっていたのかわからないのは、まだ生きているからか。

【ほぼ百字小説】(4924) 頭に中に開けていない箱が増え、置く場所がないので、箱の上に箱、その上にも箱、その上にも。はたしてあのいちばん下の箱を開けるときは来るだろうか、という疑問もいつからか箱の中で、それに関しては楽になった。

今年もあいかわらず、というか、この先も『百字劇場』を続けられるようにいろいろ考えないといけないなあ、とか言いながら、やりたいようにやっていくことになると思います。よろしくお願いします。

【ほぼ百字小説】(4923) ついにカウントダウンが始まり、ツリーに点火。もう使われることのない無数のツリーたちは轟音と共に炎を噴き出し、白煙を引いて空へと昇っていく。吊るされていたきらきらした飾りは千切れ跳び、地上に降り注いだ。

【ほぼ百字小説】(4922) 舞台に棲んでいる狸の仕業なのだ。暗転中、所定の位置についたはずがまるで違うところにいたり、手持ちの道具が入れ替わっていたり、しんみりした場面でお囃子が聞こえてきたり。常連客はそれも込みで楽しむという。

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